日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P071
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要旨
学校防災教育の課題と意義ー福岡県の場合ー
*磯 望黒木 貴一
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キーワード: 災害, 教育, 実践評価, 福岡県
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抄録
1)福岡県による学校防災教育

平成23年3月11日東北地方太平洋沖地震津波災害を契機 として,学校における大規模な自然災害からの安全確保のために,従前の想定を超える災害に対して,教職員や児童生徒にもてきかくな判断力を養成し,命を守る教育を実施することが,学校教育現場でも必要であることが指摘された。
このため平成24年度以降, 現在まで,文部科学省は,平成24年度以降現在まで,各県に委託して,「実践的防災教育総合支援事業」を実施した。福岡県教育庁は教育振興部体育スポーツ健康課を中心にこの事業に取り組み,これに加えて「自らの命を守り抜く児童生徒を育てる防災教育の推進」を福岡県重点課題研究に指定し,平成24~26年度に研究指定校4校を指定して主として地震・津波災害に関する学校防災教育の研究を実施した。また,県教育庁は防災教育推進委員会を組織した。 

また,学識経験者,防災士組織,消防署,市危機管理課,社会福祉協議会などによる学校防災アドバイザーを組織して,実践校への防災教育の実施支援に取り組んだ。

2)実践的防災教育総合事業の展開

実践的防災教育総合事業では,防災アドバイザーは県内の公立・私立の小・中・高の実践校における防災マニュアル見直しや避難訓練へのアドバイス,及び教職員への研修,生徒への講演やDIG(Disaster Imagination Game)を展開する授業など各種出前授業を実施し,実践校で取り組むべき災害や災害への対応方法についての支援を行った。また研究実践校では,教職員は各学年で,総合学習や学級活動または教科授業の一環として防災教育を主題として,様々な創意工夫を集めた公開授業を実施した。

これらの活動の展開のなかで,発表者らが防災アドバイザーとして意を用いたのは,まず各学校と校区の持つ地形・気象・地質などの自然条件と災害との関係に関する説明である。こ教職員や児童生徒にとって身近な場所での災害想定を紹介することにより,どこかよそ事として捉えられていた自然災害が,身近な地域で起きることへの理解が格段に深まり,授業の展開の際にも,児童生徒の積極的な発言や提案を引き出すきっかけにもなった。また,公開授業の展開や,防災授業の課題として,自宅の中での災害時の安全確保や,災害時の連絡方法などについて,家族と話す機会などを契機に,児童生徒から保護者,地域住民へも,防災への意識が広がり,重点課題研究指定校では,学校・地域から,自治体及び自衛隊との合同の避難訓練を展開した。これらの経験が,学校と地域との連携を深める機会ともなった。

 

3)学校防災アドバイザーとしての実践と評価

発表者らは,学校防災アドバイザーとして,主に教職員研修の講演や児童生徒への講話を依頼されることが多い。ここでは,福岡県教委(2014/2015)「実践的防災教育総合支援事業実践実例集」の記載等をもとに,発表者らの実践とそれに対する評価などを報告する。

実践・評価として,柳川市立矢留小学校の事例は次の通り。2013年8月29日に磯が職員研修の講話で2012年7月の九州北部豪雨に伴う柳川市周辺の洪水被害,1981年6月の竜巻によるこの学校の体育館被害,1985年台風13号による高潮による学校周辺低地の冠水被害,及び学校周辺の地盤高が2.5mの海抜で,高潮や津波の被害が生じやすいことを指摘した。同小教員は2012年の災害は知っていたものの1980年代の災害について知っている教員は1名だけで,過去の災害は教員には伝わっていないことが判明した。その後教員自身の調査で,1981年以降,竜巻・台風・高潮・突風による被害が5回もあり,梅雨の降雨で毎年のように通学路の冠水等,度々災害には見舞われていることの認識が培われた。黒木は2013年11月20日に4年生に出前授業を行い,地域防災マップ作りのために基盤地図情報の建物・道路・クリーク等の校区内の地理情報をGISで組み合わせた白地図を提供し,防災マップの作成を指導し冠水時のDIGも実施した。これに対し教員から生徒が住まいの条件によって判断を適切に変更できているなどの評価があった。教員も社会科の「安全なくらしとまちづくり」や理科の「流れる水のはたらき」,「火山活動や地震による土地の変化」などで,防災を意識した内容を取り入れる授業も展開できたとの報告があった。これらの内容から校区内の災害や災害の実態を教員が知る機会は,地域防災教育の導入として重要であり,学校の災害記録の継承が望まれる。なお,学校の立地条件と防災対応の違い等について当日報告する。
 
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