抄録
1.はじめに
2010年に「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(六次産業化・地産地消法)が制定され、政府は地域農業の発展と食料自給率の向上のために、地域の農林水産物を活用して六次産業化を図り、それをまずは地域内で消費し、場合によっては地域外に供給することを進めており、地産地消を六次産業化と結び付けて振興している。今後、農産物のローカル性による差別化を実現させるためには、地域で一体となって農産物の活用を推進することが必要であり、その一つとして近年ではバルイベントによる地産地消の取組があげられる。本研究では「かごしまバル街」を事例として、中心市街地の活性化策としての地産地消の取組が参加店舗とチケット売上の増加に与える影響を明らかにした。
2.かごしまバル街の実施状況
2011年に鹿児島バル街実行委員会により第1回目の「かごしまバル街」が開催された。「かごしまバル街」の目的は「バルイベントの円滑な運営を通じて、鹿児島県民や県外観光客が中心市街地で食べ歩き・飲み歩きしながら鹿児島のまちを楽しみ、その魅力を再発見。鹿児島県内の中心市街地の活性化と観光客誘致に寄与すること」であり、鹿児島の食材を使用した料理を提供し、地域的特徴を発揮したイベントにすることをコンセプトにして、他地域のバルイベントとの差別化を図っている。2011年の第1回目には参加店舗数は33であり、チケット販売数は1,565枚であったが、その後は増加しつづけ2016年の第6回目に参加店舗数は76店舗とチケット販売数は3,802枚に増加している。
3.実施範囲の設定と参加店舗の集積
2016年のアンケート調査よれば、「かごしまバル街」では、まち歩きというイベントの性質と料理の質が参加店舗数とチケット販売数に影響を及ぼしている。まず、まち歩きというイベントの性質からみると、天文館の中心商店街との距離的関係が参加店舗数とその継続率に影響を及ぼしていた。「かごしまバル街」では中心商店街の天文館に位置する、いづろ・東千石町と山之口・千日町おいて参加店舗が集積する傾向にあり、エリア内部でも参加店舗は集積する傾向があった。一方、名山掘・本港新町と鹿児島中央駅の二つのエリアでは、参加店舗数はほとんど増加しておらず、エリア内部でも店舗の集積はみられない。とくに天文館から離れている鹿児島中央駅エリアでは参加店舗の継続率も低い。すなわち、バルイベントでは実施範囲の設定が重要であり、中心商店街から離れると参加店舗数も増加せず、継続率も上昇せず、エリア内部でも店舗は集積していない。
4.地産地消の取組によるバルイベントへの効果
料理の質から「かごしまバル街」をみると、エリアによって全参加店舗に占める地産地消の表記店舗数の割合に差異が生じているが、店舗が地産地消に取組むことで参加店舗数が増加しているわけではなく、地産地消に取組む店舗は立地条件に関わらず地産地消に取組みながら継続参加していた。これらの店舗は「かごしまバル街」に広告と宣伝のために参加しているが、ほとんどの店舗は中心市街地の活性化を目的としたこのイベントに賛同しており、コンセプトである地産地消にも取組んでいる。しかし、意識的に地産地消に協力している店舗も存在しているが、多くの店舗は通常の営業から鹿児島食材を使用しているため、このイベントのコンセプトを意識して地産地消に取組んではいない。
5.おわりに
「かごしまバル街」では地産地消の取組が参加店舗とチケット売上の増加に直接的に影響を与えているわけではない。これは県外客が少ないからであると考えられる。今後、「かごしまバル街」で各店舗が地域一体となって鹿児島食材を使用するようになるには、県外客を誘致して鹿児島食材を使用した料理の需要を増加させることが必要である。