抄録
1 はじめに
学術界に留まらず,国,地方自治体および産業界などのさまざまな分野で利用されているGISは,その有用性の評価が高まるのに伴って,高等学校地理歴史科の地理系科目の学習指導要領にも,活用が盛り込まれるようになった。このため,地理教員を目指す大学生,あるいは現役の地理教員に対して,地理教育における一定レベルのGIS技術の修得は必修であり,またGISを活用した地理教材の作成が求められている。
GISの活用において,衛星画像による土地被覆分類は,地表面の状態を把握することに繋がる。またその成果物である土地被覆分類図は,GIS上において他の主題図と重ね合わせることによって,地表面の状態の分布およびその変化の要因を生徒に理解させることに役立ち,地理教材として有効である。
GISソフトウェアの中でもArcGIS(ESRI社製)は,衛星画像による土地被覆分類の解析における操作性が高いソフトウェアである。ArcGISは,世界標準的なGISソフトウェアであり,ほとんどの大学の地理学教室にも整備されている。そのため地理学専攻の大学生においては,見慣れたソフトウェアと言えよう。
そこで本報告では,地理教員を目指す大学生および現役の地理教員を対象に,地理教育におけるGIS技術の修得とその活用を目的として,ArcGISを用いた衛星画像による土地被覆分類図の作成方法について紹介する。なお,本報告ではArcGIS10.2 for Desktopを使用するが,ArcGIS 10以上のバージョンであれば,操作方法に大きな違いは無い。ただし解析には,SpatialAnalystエクステンションツールが必要である。
2 ArcGISを用いた土地被覆分類図の作成方法
(1)解析の流れ
土地被覆分類図を作成するためには,衛星画像の取得,その表示,および土地被覆分類の順に解析する必要がある。また土地被覆分類は,教師無し土地被覆分類と,教師付き土地被覆分類図の2手法に大きく分けられる。本報告では,両方の手法による土地被覆分類図の作成方法について紹介する。
(2)衛星画像の取得および表示
使用する衛星画像は,無償のデータを利用するのが現実的であろう。衛星画像のうち,Landsat画像は,長期間のデータが蓄積されており,USGSのリモートセンシングデータ検索ウェブサイト(Earth
Explorer;URL:https://earthexplorer.usgs.gov/)から無償で取得することが出来る。このLandsat画像は,オルソ補正済み画像であることから,そのままArcGISに読み込んで表示させることが出来る。
一方,土地被覆分類をおこなうためには,マルチバンド画像を作成する必要がある。マルチバンド画像は,ArcToolboxの“データ管理”ツールボックスのうち,“コンポジットバンド”ツールを用いて作成することが出来る。
(3)教師無し土地被覆分類図の作成
教師無し土地被覆分類図は,ArcToolboxの“Spatial Analyst”エクステンションツールボックスのうち,“ISOクラスタの教師なし分類”ツールを用いて作成する。このツールでは,入力画像にマルチバンド画像を指定して,任意のクラス数を入力すると,土地被覆分類図を作成することが出来る。
(4)教師付き土地被覆分類図の作成
教師付き土地被覆分類図の作成は,トレーニングデータの取得および編集をおこなった上で,土地被覆区分をおこなう必要がある。トレーニングデータは,“画像分類”ツールバーを用いて,衛星画像をデジタイズして取得する。トレーニングデータの編集は,“画像分類”ツールバーから‘トレーニングサンプルマネージャ’ウィンドウを開いておこなう。また,このウィンドウでは,取得したトレーニングデータのヒストグラム,散布図および統計値などを表示させることも可能である。
土地被覆区分は,“画像分類”ツールバーから“対話的な教師付き分類”ツールを実行しておこなうことが出来る。作成された土地被覆分類図を判読してトレーニングデータを修正する過程を繰り返して,土地被覆分類図の完成図を作成する。
3 おわりに
本報告では,単年度の衛星画像のみを使用したが,複数年の衛星画像を用いて同様の解析を繰り返せば,土地被覆の時系列変化を明らかにすることも出来る。このような解析をGISソフトウェアによっておこなうことは,作成した土地被覆分類図とGISで使用出来る他のデータとの迅速な空間分析が可能になることを示す。これは,地表面の状態の分布および時系列変化などの要因を,生徒に理解させることに役立つような地理教材を作成することが可能で,効果的な授業の展開に繋がると考えられる。