日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P059
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発表要旨
平成27年9月関東・東北豪雨の影響を受けた農作物の無機元素組成に関する調査報告
*坂上 伸生齋藤 明葉西澤 智康成澤 才彦伊藤 哲司
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抄録
【背景と目的】<BR>
茨城大学では,「平成27年度関東・東北豪雨調査団」を組織し,常総市などで発生した豪雨水害に対する調査・支援を行っている。広範囲におよぶ浸水被害を受けた常総市では,75.5億円もの農業被害を受けた。水稲やキュウリなどの農作物被害だけでも15億円に達し,農業用機械や農業用施設の流出,破損等の被害額は50億円を超えたが,2016年には「常総福幸米」として新米を販売するなど,復興に向けた取り組みが盛んに行われている。<BR>
一方で,調査団の活動を通して,住民の中には浸水地域で収穫された農作物の重金属等による汚染を懸念する声があることを把握した。この懸念は,浸水時に近隣の発電施設や工場,病院施設,浄化施設等から汚染物質等が流出したと想定しているものと考えられた。そこで,周辺地域で採取した植物資料や土壌試料について,元素分析を実施し,重金属汚染の有無を調査した。<BR>
【研究の方法】<BR>
常総市内において,稲やサツマイモ等の植物試料と土壌および洪水堆積物を採取した。植物体試料は,小型プログラム電気炉(MMF-1,アズワン)で550℃,10時間の強熱灰化をおこなった。ただし,稲は玄米,籾,枝梗および葉に,サツマイモは実と皮に分別して試料を調整した。灰化試料および土壌試料は,エネルギー分散型蛍光X線元素分析装置(EDX-700HS,島津製作所)により,真空条件で無機元素の半定量分析をおこなった。<BR>
 【結果と考察】<BR>
土壌および洪水堆積物の元素分析の結果を表1に示す。いずれの試料も特異的な値を示すものはなく,浸水被害がなかった地域の雑木林表層土壌と同様の分析結果であり,洪水に起因する重金属元素の付加は認められなかった。表2には植物試料の元素分析結果を示す。稲およびサツマイモに関しても特異的な値は認められず,住民が懸念する重金属汚染などを示すデータは得られなかった。本調査は分析対象とした試料が少数であるため,汚染や健康への影響がないことを断定するためには,より広範囲から採取した複数種の植物試料や土壌試料を調査する必要がある。また,重金属以外にも感染性微生物の汚染などに対する懸念を示す住民もいたことから,微生物分析など,多面的に調査を展開することが望ましいと考えられた。
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© 2017 公益社団法人 日本地理学会
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