日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 908
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発表要旨
日本の都市における社会階層分極化と都市内居住分化の関係
*上杉 昌也
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抄録
I 研究の目的
経済格差の拡大など社会構造の空間構造への反映は,都市地理学や都市社会学において関心を集めてきた.特にグローバル化による産業構造の転換により社会階層の両端が増大するとするサッセン(2008)では,このような分極化が都市の空間構造にも影響が及ぼすことが示唆される.しかし,社会階層の分極化が即ち都市内の住み分け(居住分化)を招くわけではなく,豊田(2007)は社会階層分極化について,垂直的分極化と空間的分極化を区別することの必要性を主張している.実際,近年のヨーロッパ諸都市における両者の関係は国の住宅・福祉政策等にも依存して異なることが示されているが,これまでの研究の対象は特定の大都市(圏)に限られている.そこで本研究では,全国市町村の2010年と2015年の国勢調査データを用いて,社会階層分極化と都市内居住分化の関係について明らかにする.

II データと方法
 本研究では職業構造に着目し,2010年と2015年の国勢調査小地域集計の職業別就業者数データを用いて,都市別の構成比と居住分化の水準を算出する.なお2010年時点で人口が100,000人以上の市町村を対象とした.
職業構成は,H層:管理的職業,専門的・技術的職業,事務従事者,M層: 販売,サービス職業,保安職業従事者,L層: 生産工程,輸送・機械運転,建設・採掘,運搬・清掃・包装等従事者,その他: 農林漁業従事者,分類不能の職業により分類した.
また各都市における居住分化の水準を定量化するため,相違指数(DI: Dissimilarity Index)を用いる.各都市のDIは下記の式(1)で表され,0~100の値をとるが,値が大きいほどH層とL 層との間の住み分けが進んでいることを示す.
  DI=0.5∑|xi/X-yi//y|*100 (1)
ここでxiyiは町丁字iにおけるH層とL層の人口であり,XYは都市全体でのH層とL層の人口である.
分析では,2010年~2015年におけるH層とL 層の割合の増加を社会階層分極化とみなし,H~L層の構成比の変化とDIの変化との関係について検討する.

III 分析結果
対象となった268都市の2015年におけるDIの平均は,19.0(最大41.0:つくば市~最小7.6:小金井市)であり,214都市が2010年よりも減少した.M層の割合が低下したのは236都市であり,そのうち198都市でH層とL層の両層の割合が増加した分極化が見られた.図1には,2010年~2015年においてM層の割合が減少した都市について,その減少幅とDIの変化との関係を示した.このうち分極化が見られた都市では,M層の割合の減少が大きいほどDIも減少する傾向が見られる.また,H層の割合のみが増加した都市の約8割で居住分化の水準が低下している.近年大都市の都心部ではジェントリフィケーションの進行も指摘されているが,このような分極化と居住分化の関係に地域差が見られた要因について,住宅構成や都市形態の面から考察する.
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© 2017 公益社団法人 日本地理学会
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