日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P008
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発表要旨
三浦半島荒崎海岸における波食棚の形成高度に関する一考察
*青木 久高田 結人川島 愛
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抄録

1.はじめに

岩石海岸における特徴的な波食地形に波食棚がある.急傾斜した互層からなる波食棚の表面には洗濯板状起伏がみられる.このような起伏(凹凸)は,凹部と凸部が別々の岩石で構成されているため,構成岩石の風化・侵食に対する抵抗性の差異を反映した地形であると考えられている.例えば,凸部が凝灰岩層,凹部が泥岩層で構成される三浦半島荒崎海岸に発達する波食棚表面の洗濯板状起伏は,凝灰岩と泥岩の力学的強度の差異に起因するのではなく,乾湿風化によって分離した泥岩の岩片が波によって侵食されるプロセスにより生じる地形であるという(鈴木ほか,1970).

そこで本研究では,鈴木ほか(1970)で報告された神奈川県三浦半島荒崎海岸に発達する波食棚を調査対象とし,急傾斜した互層からなる波食棚の形成高度について,岩盤の抵抗性という観点から考察を行ってみた.

2.調査地域の概観

荒崎海岸は三浦半島の西岸に位置し,相模湾に面した岩石海岸である.この海岸には,関東大地震(1923年)の際に約1.4 mほど隆起した波食棚が広く発達する.この地域の地質を数m以上の(岩盤)スケールでとらえると,波食棚は泥岩に凝灰岩層が挟在する泥岩凝灰岩互層で構成された地形とみなすことができる.

3.調査方法

本研究では鈴木ほか(1970)に示されている地形図・地質図を参考にしながら,以下のような現地調査を実施した.まず波食棚を構成する凝灰岩と泥岩に関する分布図の作成を行った.次に,波食棚上に測線を設け,地形測量を行い,波食棚表面の高度(波食棚の形成高度)を把握した.これらのデータを基に,波食棚の形成高度と地質との対応関係を調べた.

4.結果・考察

本地域に発達する波食棚には,形成高度に場所的差異があることがわかった.測線上のある区間(L,m)において,凝灰岩層の枚数(N, 枚)を数え,泥岩に含まれる凝灰岩の密度(N/L,枚/m)を定義し,波食棚の形成高度とN/Lとの関係を調べたところ,N/Lの値が大きいほど,波食棚の形成高度が大きくなる傾向がみられた.このことは,侵食を受けやすい泥岩に,侵食されにくい凝灰岩層が含まれる割合が高いほど,岩盤の抵抗力が強くなり,波食棚が低下しにくいことを示唆している.

参考文献

鈴木隆介・高橋健一・砂村継夫・寺田 稔(1970):三浦半島荒崎海岸の波蝕棚にみられる洗濯板状起伏の形成について.地理学評論,43-4,211-222.

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