日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P054
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発表要旨
群馬県みなかみ町におけるエコツーリズムの意義と課題
*中岡 裕章
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抄録
  全国の地方自治体は基幹産業の衰退や人口減少,高齢化といった問題に直面しており,地域社会の持続を目的とした地域振興策が求められている.それに対し,これまで国主導による公共事業や工場誘致,リゾート施設建設といったハード面の開発事業を中心とした政策が行われてきた.しかし,国主導による全国画一的な事業になってしまった結果,多くの場合,地域の個性や独自性を生み出すことができなかった.他方,国の財政難もあり,ハード面の開発事業を中心とした地域づくりを継続することが難しく,既存の地域資源を活用したソフト面の開発事業による地域づくりが求められている.こうした中で,ソフト面の開発事業による参入が可能であり,地域固有の資源を保全しながら活用し,地域経済の活性化を目指すエコツーリズムへの関心が高まっており,地域づくりの一手段として展開している側面がある.
本報告では,群馬県みなかみ町を事例に,エコツーリズム導入の経緯と取り組みの内容を把握し,地域づくりのためにすすめられるエコツーリズムの意義と課題を検討する.みなかみ町は,2012年にエコツーリズム推進法に基づく全体構想が認定されており,観光地におけるエコツーリズム推進地としては代表的な地域である.
調査は,エコツーリズム推進の背景や経緯を把握するために,みなかみ町観光商工課自然観光グループおよび谷川岳エコツーリズム推進協議会に聞き取り調査を実施した.また,活動の内容を把握するために,エコツアー実施者に対して調査票を用いた面接調査を実施した.期間は,2015~2017年にかけて実施した.
 みなかみ町は,谷川岳での登山やトレッキングをはじめ,温泉観光やウィンタースポーツも盛んであり,観光業が重要な産業となっている.しかし,近年では観光者数が減少している.一方,登山やトレッキングへの関心の高まりから,谷川岳への登山客や観光者の集中による自然環境への悪影響が問題視されてきた.こうした中で,地域環境を保全し,観光振興を目指すとともに,地域住民と観光者との交流を促進させることを目的としてエコツーリズムを推進してきた.また,エコツアーによって観光客一人あたりの滞在時間を増やし,宿泊客数の増大を図る狙いもある.
 エコツーリズムの推進範囲は,観光客や登山者などの利用が集中する上信越高原国立公園をはじめ,自然環境保全地域に指定されている朝日岳と白毛門周辺地域である.したがって,みなかみ町のエコツアーは,この推進範囲内で展開している.
 エコツーリズムの推進範囲が谷川岳周辺地域であることから,エコツアーはみなかみ山岳ガイド協会に所属する山岳ガイドが中心となって行われている.それゆえに,エコツアーの内容はトレッキングや自然散策を目的としたものが中心となっている.
山岳ガイドには60歳以上の高齢者の割合が高く,エコツアー参加者との交流に楽しみや生きがいを感じる者が多い.また,エコツアーによって自然の大切さや地域の歴史や文化といった魅力を伝えたいと考える者が多い.そのため,谷川岳やみなかみ町の魅力を,エコツアー参加者に楽しくわかりやすく伝える工夫を行っている.したがって,エコツアー参加者は楽しみながら地域の魅力や環境を学ぶことができる.
一方,しかし,エコツアー参加者数は減少傾向にあり,利益もあまり得られていない.また,水上温泉の宿泊施設との連携を目指しているが,エコツーリズムの推進範囲が谷川岳周辺地域であり,既存の観光業との接点が乏しく,エコツーリズムへの関心は低いのが現状である.
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© 2017 公益社団法人 日本地理学会
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