日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S306
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発表要旨
課題山積のジオパーク
解決に向けて地理学ができること
*柚洞 一央
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抄録
日本のジオパークは、ほとんどが行政主導で運営されているため、活動がスムーズに展開されていない実態がある。たとえば、ジオパークをお客さんに楽しんでもらうために、具体的にどのような受け入れ態勢を整備するのかといった観光への応用や、学校教育におけるジオパークの活用をどのように浸透させるのかといった教育現場への普及活動、また、そもそもジオパークという道具を使って、地域をどうしたいのかといった中長期ビジョンの策定など、ジオパークを可視化する作業を、誰が、どのようにして行うのかという点においてさまざまな課題を抱えている。事務局スタッフが充分に確保されていない、または、確保されていても、担当者の力量が不十分の場合、認定の際に日本ジオパーク委員会から指摘された課題そのものに取り組めないという現状もある。ジオパーク活動そのものに、明確な答えがなく、都道府県や国が指針を出しているわけではないため、事務局スタッフの中には、ジオパークの仕事に順応できず精神疾患を発症し、他の部署に異動するケースも見受けられる。地域住民の視点で見ると、ジオパークとはなにか、具体的な事例を示しながら説明できる事務局スタッフが少ないため、ジオパーク活動が地域住民に浸透していかない問題もある。これらの現状を改善するためには、首長の理解と覚悟が重要となってくるが、首長のジオパークに対する理解そのものにかなりの温度差があり、簡単に解決できない。 
こういった実態に対して、日本ジオパーク委員会は、新規認定審査や再審査において厳しい評価を出し始めた。新規認定見送りや条件付き再認定(通称イエローカード)などが出されるケースが増えている。しかし、再審査で厳しい評価が出されても、それを踏まえて行動できる人材が存在しなければ改善されることはない。
これらの課題を解決するために、ファシリテーション能力を兼ね備えたレジデント型の地理学者がジオパーク運営には必要である。ジオパークとはなにか、地域住民や行政、関わっている研究者に対して通訳できる人材が不可欠である。地域住民や観光客に理解してもらう、楽しんでもらうために、食や文化などから地形地質の特徴を説明できるジオストーリーの構築も必要である。そういった点において、文理融合の総合学問である地理学は大きな役割を果たしうる。
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© 2017 公益社団法人 日本地理学会
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