抄録
改革開放以降、中国経済の高度成長に伴って都市人口が増加しつつある。一部の都市では、過密化、混雑現象、環境悪化などの大都市問題が生じた。これらの都市問題を緩和するため、多くの地方政府は溢れた人口の受け皿である新市区開発を計画し始めた。一方で、多くの都市新市区の人口は計画人口に及ばず、入居者不足問題を抱えている。本研究では、中国中部にある江西省の省都である南昌市を事例として、聞き取り調査を行い(23人)、新市区に移住してきた住民の移動パターン、移動の理由及び新市区に移動する理由を検討した。 ■調査の結果、23回答者の中、20人の居住形態は持家であり、3人は賃貸であった。居住形態が賃貸であると回答した人の新市区への移動パターンは3人とも他都市からの転勤である非自発的移動であった。 ■他方、居住形態が持家であると回答した人の新市区への移動パターンは3種類に分けられる:①都市内移動(旧市区中心部→新市区)、②都市内移動(非都心地区→新市区)、③都市間移動。また、移動の理由は自発的と非自発的に分類できる。非自発的理由として、ライフイベント、住宅の取り壊しや勤務先の移転などが挙げられる。一方、自発的理由として、居住環境の改善、子供の教育や転職などがある。 ■さらに、新市区を選択した理由は下記の6種類にまとめられる。①新市区の良好な居住環境(最も多い理由)。具体的に都市景観(都市の感性)、交通量が少ないこと、騒音が少ないこと、非都心地域に比べて公共施設と商業施設が整備されていることや住民の教養・モラルが高いことなどが挙げられた。②有名小・中学校の学区。旧市区に分散している有名小・中学校は、新市区に集中的に新しいキャンパスを設置した。③勤務先によるコーポラティブハウス(集資房)。都市住宅制度改革以前は、勤務先(単位)が都市住民に居住を提供していた。現在、一部の国有企業・政府機関は依然として従業員の居住に影響を与えている。④価格。⑤立地。旧市区と比較して新市区のほうが新市区に隣接した非都心地域に近い。居住環境を改善したい非都心地域住民は新市区に移動しやすいと考えられる。⑥その他(将来性や友人の影響など)。