抄録
1.背景 障害の有無に関わらず、誰もが平等に生活できる社会環境の実現を目指し、様々な取り組みが進められている。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えた今、移動の円滑化やバリアフリー化は重要な課題であり、その整備が急務となっている。このような背景のもと、当社では、健常者のみならず視覚障害者、高齢者、車イスやベビーカー利用者などの移動支援を目的として、点字誘導ブロックや歩道情報のデータベース化を行ってきた。しかしながら、その開発・利用にはGIS製品が必要なため利用シーンが限定されることや、現地でしか確認できない情報を付与しにくいなどの問題点もあった。 そこで当社ではネットワーク化した歩道データを組み込んだタブレット端末用アプリケーションの試験開発を進めている。本発表ではその一部を紹介する。 2. 歩道ネットワークデータ 歩道ネットワークデータとは、公開情報(主に国土地理院提供)をベースに、道路の歩道部分と横断歩道および歩道橋を抽出・結合しネットワーク化したデータ(図1)のことで、バリアフリー情報として「傾斜」「幅員」「点字ブロックの有無」の3つを属性として付与してある(*)。以下、試作版として作成した東京都文京区のデータをサンプルとして用いる。 3. タブレット端末用アプリケーションの開発 こうした地理空間データを広く閲覧・利用できるようにするためには、タブレット端末(スマートフォン)用のアプリケーションソフトが相応しい。当社では、iOS用の簡易閲覧ソフトウェアを開発し、最適ルートの検索や、利用者からのフィードバックを組み込むことを視野に開発を進めている。プロトタイプ版では標準的なWebマップをベースとして、現在地の表示、歩道属性情報によるレイヤー表示の切り替え(歩道の傾斜、幅員の大小、点字ブロックの有無の視覚化)をボタンで操作できるようにしている(図2)。将来的には、歩道状況を考慮して最適な経路を検索できるナビゲーション機能や、「交通量が多い、障害物がある、路面状態がよくない」といった現地情報(写真を含む)を集約できるような情報収集機能の追加も検討している。 なお、タブレット端末が如何に使いやすくなっても、視覚障害者や高齢者にとってはまだ一定のハードルが存在する。よって、当該アプリケーションは移動困難者をサポートする支援者を主なターゲットユーザーとし、一般的な地図系のソフトウェアと同様なインターフェイスを踏襲しながら、よりシンプルな操作が可能なものを目指している。 4. 課題と展望 現行の歩道ネットワークデータはあくまで歩道のみを抽出したラインデータであり、歩道が設置されていない道路(歩車非分離道)や、庭園路(遊歩道、緑道、自然歩道等)は含まれていない。歩道は安全が担保された道路空間だが、実際、歩道でなくとも歩行者が移動可能なルートは存在し、既設道路の情報をどう結合しソフトに組み込むかといった検討も必要である。 また、よりミクロな精度の情報、たとえば細かい段差や微少な起伏、街路樹やガードレールの有無、あるいは通学路指定、自転車レーンの併設など地域性の高い情報を盛り込むことができれば、より実用性の高い情報提供が可能になると考えられる。