日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 536
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発表要旨
社会的空間からみた首都圏在住ムスリムの日常生活
東京都豊島区「マスジド大塚」を事例として
*川添 航
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抄録

本研究の目的は,日本のムスリム社会に注目し,ムスリムの居住地や日常生活とマスジドの活動との相互作用,およびムスリム社会の拡大に伴うマスジドの変容を明らかにすることである.東京都にあるマスジド大塚を研究対象として参与観察を行い,その過程においてムスリム29人に日常生活についての対面聞き取り調査を行った.また,マスジドの活動や沿革については,運営団体である日本イスラーム文化センター(Japan Islamic Trust : JIT)理事会役員に聞き取り調査を行った.欧米と同様,日本に流入した外国人ムスリムもホスト側国家の入国管理に影響を受ける不安定な存在である.異文化環境において,ムスリムは社会関係の維持やアイデンティティ保障等の社会的・精神的な存在意義を持つ施設としてマスジドを整備してきた.マスジド大塚は都心部に位置するためアクセシビリティは高い一方で,郊外に居住するムスリムは平日通勤等のため頻回にマスジドを訪れることが困難であるなど,ムスリムの日常生活においては労働の比重が大きい.また,本来宗教的に望ましいと考えられる礼拝方式と比べて,就業環境から制約を受けることもある.日常生活におけるこれらの制約との対比が,マスジドでの活動や礼拝の重要性を高めていると考えられる.マスジド大塚の活動はムスリムの社会経済的発展を反映し,最近20年程で整備・拡充されてきた.単身者や子供を持つ家庭など,様々な背景を持つムスリムが一箇所に集まる施設であるというマスジドの特性を反映している.ムスリムの居住地は,近隣地域に居住する「近隣地域居住型」,北部郊外に居住する「単純労働・単身居住型」,南部郊外に居住する「専門職・親族居住型」,遠隔地に居住する「行事参加型」に区分される.マスジド大塚は異なる社会経済的状況により生じるムスリムの要求に応じて多様な活動を展開しているため,広範な地域からムスリムが訪れている.マスジドはムスリムが信仰と主体的に関わるための施設である一方,ムスリムと個々のマスジドとは機能的な関係で結びついているといえる.

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