日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 516
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発表要旨
晴天弱風夜間の東京における風の周期的変動の特徴
*中島 虹高橋 日出男常松 展充
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抄録

安定成層中では重力を復元力とした重力波が生じる.安定成層が形成されやすい晴天弱風夜間には,数十分の周期を持つ気温や風の変動が観測されている (例えば横山ほか 1981).これらの多くは1地点や数100 m以内の数地点での観測が多く,多数の観測点から面的にとらえた解析は限られる.そこで,本研究では東京都内における風や気温の変動の特徴を面的に示すことを目的とする.
2016年11月16日から2017年3月1日まで郊外の安定度を把握する為にスカイタワー西東京(ST;10, 20, 40, 90, 125 m)において気温を10分間隔で独自に観測した.観測期間中の大気汚染常時監視測定局の一般局45地点の1分値および東京管区気象台東京地上気象観測所(以下北の丸)の10分値の気温・風向・風速を使用した.都心の安定度を把握するため,東京タワー(TT)の高度別気温(4, 64, 103, 169, 205, 250 m)を中島ほか(2018)と同様の方法で補正して使用した.また,事例抽出のために北の丸の風速,降水量,雲量の時別値を使用した.観測期間のうち,晴天弱風事例として北の丸において18時から翌日8時までの積算降水量が0.0 mm以下かつ同時間帯における平均風速が2.7 m s-1 以下かつ18,21,03,06時の平均雲量が2以下となる18事例を抽出し,8事例で風向の周期的な変動がみられた.本研究では変動が特に明瞭であった2017年1月11~12日を主に対象とする.
(a)中野区若宮,(b)渋谷区宇田川町における風速 (WS),風向 (WD),61分平均からの気温偏差 (T’) の時間変化を図1に示す.中野区若宮では22時までは風速3 m s-1 以上の北寄りの風が卓越したが,22時から翌2時までWD,WS,T’ともに周期的に変動した.変動の周期性をウェーブレット解析により調べた結果,20~50分の卓越周期が示された.この周期はSTにおける鉛直温位分布から算出されるブラント・ヴァイサラ振動の周期の5~10倍であり,この比は横山ほか (1981) とも整合的であった.変動の時間中はWSとT’に正相関がみられた.一方で渋谷区宇田川町においては2時まで北風が継続し,風向の変動はみられなかった.2時以降は風向が南西に変化した.
風の変動の地域性を把握する為に,府中から練馬にかけての東西方向の6地点と北の丸における風の時間変化および20~60分のバンドパスフィルターを施した南北風速成分(V’)を図2に示す.22時以降,各地点で風向が周期的に変動した.ただし,渋谷区以東の都心部では変動が不明瞭であった.変動が不明瞭となる境界は都区部西部の水平気温傾度が大きい地域(気温急変域)と一致した.
風向変動は北寄りの風と西寄りの風が収束した際に,西寄りの風の強い安定層内に発生した重力波と考えられた.都心(TT)の安定度は小さいことから,西寄りの風の強い安定層を東進した内部重力波が,気温急変域の都心側では拡散されて風向変動が不明瞭となったと考えられる.

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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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