日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 315
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発表要旨
輸入鶏肉急増下における鹿児島県のブロイラー養鶏地域の存続
寺内 愛*深瀬 浩三
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抄録
Ⅰ はじめに
 日本における養鶏業は,1960年代~1970年代にかけて,大手の総合商社や飼料会社が北東北や南九州などの国土周辺部へ進出して,系列下の処理場などの関連施設を建設した.大手資本の主導による生産・加工・流通部門の垂直的統合(インテグレーション)が進展し,ブロイラー養鶏地域の大規模化に寄与した.
 1980年代半ば以降,アメリカ合衆国や中国などから,2000年代からは新興地域のタイやブラジルから安価な輸入鶏肉が急増している.このような国際競争に組み込まれた中で,日本各地のブロイラー養鶏地域ではどのような対応を取っているのだろうか.そこで本研究では,鹿児島県を事例にブロイラー養鶏地域の中核を担っているインテグレーターと呼ばれる企業の経営形態から,ブロイラー養鶏地域の存続を明らかにすることを目的とする.
 研究方法については,2017年3月~10月にかけて,鹿児島県の養鶏業の概要については鹿児島県農政部で資料を入手した.また,ブロイラーの飼養や鶏肉の処理・加工・流通構造については,各企業を対象に経営内容ついて聞き取り調査を行った.その結果,9社のうち7社(農協系3社,独立系3社,総合商社系1社)から有効回答が得られた.それと併せて各種統計を活用した.
Ⅱ 鹿児島県におけるブロイラー養鶏の地域的展開
 鹿児島県では,1950年代半ばからブロイラー養鶏が導入された.1969年に三菱商事系のジャパンファームが,1972年に丸紅系の霧島食品が進出して処理場を建設した.それを契機に,農協系やその他地元企業もブロイラー事業に参入し,県内各地に養鶏地域が形成された.
 1970年代~1980年代には,総合商社系や農協系の企業などは飼料工場を建設した.各企業は,委託農家や直営農場を増加させ,また,鶏肉処理の規模拡大と保冷輸送技術に向上によって,広域大量流通を実現した.
 1990年頃をピークに2000年代半ばにかけて,鹿児島県におけるブロイラー飼養農家戸数は減少し,それ以降はほぼ横ばいであった.しかし,飼養羽数は増加傾向であることから,1戸あたりの飼養羽数が増加し,農業経営の規模拡大が進展している.
Ⅲ 鹿児島県におけるブロイラー・インテグレーターの経営形態
 1980年頃まで,農協系や独立系,総合商社系の18社が立地していたが,その後減少して,2017年現在では9社となっている.処理場の立地については,交通条件が良く養鶏業が盛んな地域の近くや,自治体の企業誘致による移転などが理由に挙げられる.処理場の統廃合については,1992年からの食鳥検査制度の実施と処理場の老朽化などを理由にコスト面から,1990年代以降,処理場の統廃合が進んだ.
 飼養方式については,総合商社系は直営農場の割合が高く,一方,農協系や独立系はほとんどが農家との委託契約である.農協系の中には,ブロイラーではなく種鶏や親鳥などの取り扱いに特化した経営もみられる.また,各企業では輸入鶏肉や他社との差別化を図るため,銘柄鶏の取り扱いとそのブランド化に取り組んでいる.
 集荷地域については,各企業の処理場によって棲み分けがみられる.また,独立系や総合商社系の企業では,鹿児島県本土内だけではなく,宮崎県や熊本県など広範囲から集荷している.一方,農協系企業は鹿児島県本土内の処理場が立地している市町を中心に集荷している.
 ブロイラーの処理工程に企業の違いはみられないが,処理規模については,とくに総合商社系は年々処理羽数が増加している.1990年代以降,輸入鶏肉の増加などに対して,総合商社系や独立系の企業は,処理場の増築によって鶏肉処理の効率と規模拡大を図っている.また,農協系と独立系の企業では,処理場とは別に加工工場を建設し,鶏肉加工商品を製造・販売している.
 処理場の労働力については,処理場の立地場所によって高齢化が進んでいるところもあるが,どの企業の処理場でも女性の割合が高い.また,2000年代半ばから外国人技能実習生を受け入れて,労働力を確保している.
 鶏肉の出荷販売については,農協系は鹿児島県内の生協や卸売会社や小売店が中心で,県外へは卸売会社を通じて西日本を中心に流通している.一方,総合商社系と独立系は大手卸売会社が中心である.
Ⅳ おわりに
 従来の他の養鶏地域の研究と同様に,企業の処理場の統廃合の進展とそれに伴う集荷地域の棲み分けや広域化,銘柄鶏の導入などによる養鶏地域の再編は鹿児島県でもみられた.加えて,1990年代から農協系と独立系の企業では,加工工場を建設し販路の多様化を図っている.2000年代半ばからは,各企業で外国人技能実習生によって労働力を確保している.一方,処理場の設備更新や直営農場の建設,委託農家の確保などは各企業ともに今後の課題となっている.
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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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