日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 217
会議情報

発表要旨
国勢調査における「不詳」の関連要因
*埴淵 知哉山内 昌和
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

背景 国勢調査は、長らく基礎的な地域統計として利用されてきたが、近年は調査票の未回収や調査票の一部にしか回答しないことに起因する「不詳」の増加がみられ、地域分析への影響も懸念されている。調査票の郵送やインターネット回答の導入など、回収・回答状況の改善に向けた取り組みがなされてきたものの、2015年国勢調査においても「不詳」はさらに増加しており、統計としての信頼性が揺らぐ事態となっている。この問題に対する取り組みとしては、「不詳」によるデータの偏りの実態把握と、回収・回答状況改善に向けた「不詳」発生の要因分析が必要である。

本研究は、インターネット調査を通じて国勢調査に対する認知・回答・協力意識を把握し、それらと回答者の個人属性・地域特性および国勢調査に対する意識や知識との関連性を明らかにすることを目的とする。

方法 2018年3月に、クロスマーケティング社の登録モニターに対してインターネット調査を実施した。対象は20-64歳とし、2015年国勢調査に基づく年齢・性別・地方の構成比に応じて1,000サンプルを比例配分する方法で回答を集めた。インターネット調査を採用したのは、国勢調査に回答しない層(「不詳」該当サンプル)も登録モニターに含まれている可能性が高いと考えられたためである。

分析においては、利用変数に欠損値の無いサンプル(n=977)を対象とし、国勢調査に対する「不認知」(知らない)、2015年調査における「未提出」、2020年調査への「非協力」的態度の三つを従属変数として、それぞれに関連する要因をロジスティック回帰分析により特定した。

結果 「不認知」は、高齢層・男性・有配偶・高学歴層において有意に少ない(=認知度が高い)ことが示された。「未提出」は年齢・配偶関係・世帯構成・居住年数といった個人属性と関連していたが、多変量調整の結果有意な値を示したのは年齢のみであった。若年層ほど未提出となる傾向が非常に強く、それが未提出者における未婚・単独世帯・集合住宅の借家・短期居住者の多さにも反映されていたものと解釈できる。地域特性としては、三大都市圏居住者において未提出が多い傾向が確認された。また、国勢調査に対する知識量(調査主体・方法・結果の利用方法などを知っているか)が増えると未提出は大幅に減少する傾向もみられた。「非協力」については、個人属性よりも、プライバシー意識や国勢調査に対する意見、国勢調査に対する知識量といった意識面と強く関連していた。

考察 以上の結果は、第一に、2015年国勢調査において年齢による「不詳」の偏りが存在し、そのことが先行研究でも懸念されてきた配偶関係などの「不詳」の偏りにも影響した可能性を示している。また、個人属性の影響を考慮してもなお大都市圏には「不詳」が偏在しているため、国勢調査データの利用時に疑似的な地域差・地域相関を生み出す危険性に注意する必要性が指摘される。
第二に、プライバシー意識は、それが高いほど「非協力」意識は高まる一方、「未提出」とは独立した関連性がなく、「不認知」はむしろ少なくなる傾向にあることから、一概に国勢調査の回収状況を悪化させるとは断定できない。それよりも、国勢調査に対する知識量の少なさが「未提出」や「非協力」と強く関連していたことを考慮するならば、国勢調査の意義や方法、プライバシー保護の仕組みなどをより丁寧に周知していくことが国勢調査の回収状況の改善に結び付く可能性が示されたといえよう。

著者関連情報
© 2018 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top