日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P220
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発表要旨
箱根山噴火(150629)後の周辺水環境に関する研究(5)
*堀内 雅生小寺 浩二浅見 和希猪狩 彬寛
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抄録

Ⅰ はじめに
火山地域では水資源が豊富で、保全、利用のためには水環境問題の把握が重要である。噴火による水環境汚染は火山噴出物から溶出した成分により広範囲な汚染が特徴的で、生物や経済への影響は大きい。これを踏まえ、2015年6月29日に箱根山の大涌谷で発生した噴火が周辺水環境へどのような影響を与えているか研究を始めた。これまでの調査で、大涌沢では噴火から時間が経つにつれてECおよびCl-/TAni(陰イオン当量計)が低下する傾向がみられた。
Ⅱ 研究方法
調査は毎月1回の間隔で実施している。現地では河川・沢・雨水を中心に、AT,WT,pH,RpH,ECなどを測定した。さらに採水したサンプルを持ち帰り、研究室にて主要溶存成分等の分析を行っている。
Ⅲ 結果・考察
1.河川のEC・pH

大涌沢では噴火直後の調査で6,780μS/cm、pH2.4の高EC・低pHを観測した。長期的には大涌沢のECは低下しており、2016年8月調査(以下、1608のように略)以降は3,000μS/cm前後で安定している。pHに関しては噴火直後と比較して高い値が観測された。早川ではEC、pHが200~400μS/cm、7~8で変動し、目立った変化は見られなていない。
2.主要溶存成分
大涌沢では噴火から時間が経つにつれ、Cl-が低下する傾向がみられている。一方でSO42-は目立った減少はみられていない。大涌沢下湯橋でのCl-/SO42-比率は、1507に1.1であったものが、1707では0.2に低下している。これは、火山活動の高まりによって源流域の湧泉の水質が変化したこと、噴火によって放出された火山噴出物からの成分溶出などが要因として考えられる。
早川のCl-/TAniを見ていくと、1507においては大涌沢合流後に値が大きく上昇し、大涌沢の影響を大きく受けていることが分かる。一方で、1607および1707では大涌沢合流後も値はあまり大きく変化していない。理由としては、この頃になると大涌沢では陰イオンにCl-があまり大きな割合を占めておらず、大涌沢から早川へのCl-の供給が減ったためと考えられる。
3.雨水
雨水は9地点でサンプリングしているが、噴気地帯である大涌谷に近い地点では雨に含まれる溶存成分が多く、距離が離れるにつれて溶存成分が少なくなっており、雨水水質に与える火山ガスの影響が大きいことが考えられる。
Ⅳ おわりに
大涌沢の陰イオン成分比が噴火から時間が経つにつれて変化していることが分かった。現在流量観測を継続しており、今後は定量的な考察を行っていく。

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