日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P210
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発表要旨
夏季の南関東における局地風系の交替時刻の地域分布
*瀬戸 芳一福嶋 アダム高橋 日出男
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抄録
1. はじめに
 一般風の弱い晴天日において,沿岸では熱的な要因によって吹く海陸風が出現する.夏季の午後における関東平野内陸部の高温の要因として,都市域の風下側において冷気移流を伴う海風の侵入が遅いことが指摘されるが,夏季の局地風系の日変化について,長期間の観測データを用いてその分布を詳細に解析した例は少ない.本研究では,関東南部における高密度な気象観測データを用いて,日ごとの風向の定常性を示す定常度の日変化に着目し,局地風系の交替時刻の観点から,その地域分布について検討を行った.

2. 資料と方法
 気象庁アメダスに加えて,自治体の大気汚染常時監視測定局(一般局)における風向風速の毎時値を用いた.対象期間は1990年から2014年まで(25年間)の7,8月とし,大幅な移転がなく欠測が5年以下の地点を使用した.定常度は,風速のベクトル平均とスカラー平均との比で表され,海風や陸風が卓越する時間帯は日ごとの風向の変動が小さいことから定常度が大きくなると考えられる.晴天で一般場の気圧傾度が弱く,日中と夜間との風向変化が明瞭な海陸風日(147日)を抽出し,毎時の定常度を求めた.

3. 定常度の日変化
 海陸風日における定常度と風向風速の日変化を検討した.さいたまにおいては,10時と24時に定常度の極小が認められるとともに風向が大きく変化しており,この時刻の前後が海風と陸風との交替すなわち凪の時間帯に相当すると考えられる.一方で,東京湾岸の江戸川臨海では10時から22時にかけて,1に近い大きな定常度を示す.風向は1日を通して南寄りであり陸風への交替は認められないが,22時から翌7時の極小に向けて定常度は減少し,日によっては陸風への交替が起こっていると考えられる.この場合,陸風が最も卓越するのが極小時刻であり,陸風から海風への交替時刻はこれより後と考えるのが自然である.これらの検討の結果から,海風への交替は,3時~12時の定常度の最小値が0.50以下であり,最小値以降17時までに0.60に達した時刻,陸風への交替は,18時~翌5時の最小値が0.45以下であり,最小値以降翌6時までに0.45または最小値+0.15のいずれか小さいほうに達した時刻とそれぞれ定義し,交替時刻を求めた.

4. 交替時刻の地域分布
 海風への交替時刻は沿岸部で早く,内陸へ向かって遅くなり,海風前線に対応する海岸線に平行した等時刻線の進行が認められた.一方,山地に近い地域でも交替が早く,これは谷風への交替に対応すると考えられる.東京湾,相模湾からの各海風域および内陸の谷風域から遠いさいたま市の北側付近で交替時刻は最も遅く,この時刻以降には全般に南寄りの広域海風に覆われる.陸風への交替は海風よりも等時刻線の進行が遅く,翌5時においても東京都区部の大部分では陸風への交替がみられなかった.沿岸に近い地域ほど,1日を通して南寄りの風が卓越し陸風が到達しない日が多く,特に東京湾沿岸では海陸風日のうちの60%以上を占めた.沿岸まで陸風が到達した日(58日)について再び交替時刻を求めたところ,陸風への交替は多くの地域で海陸風日よりも早まり,翌5時には東京都区部のほぼ全域において陸風への交替が認められた.今後,経年変化や高温域との対応についても検討したい.
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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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