日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 517
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発表要旨
ドップラーライダーで観測された富山平野の山谷風・海陸風の発生と結合
*西 暁史今井 優真日下 博幸
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抄録
熱的局地循環は,海陸分布・土地利用分布・山岳を起因とする気温差(気圧差)によって発生する循環である.関東平野では,海風と谷風が発生・発達した後に,それらが結合し広域海風が発生することがよく知られている.
 一方で,富山平野は関東平野と比べて非常に狭く,海・平野・山岳が近接している.そのため,関東平野のように個々の局地循環が個別に発生し,時間経過とともに結合するのではなく,山谷風と海陸風が結合した状態で発生する可能性がある.本研究は富山平野の山風と陸風(もしくは谷風・海風)それぞれの発生時刻に着目し,それぞれが個々に発生・発達し結合するのか,それとも結合した状態で発生・発達するのかを明らかにする.
 本研究は,富山平野の海陸風・山谷風に関する事例解析を行った.まず,AMeDASデータ,大沢野消防署(海岸から19㎞,山から4㎞の位置)の気象観測データを用いて,山風発生時の富山平野内の地上風分布を得た.更に,ドップラーライダーを用いた独自観測データから,山風,谷風の最下層の鉛直構造とその時間変化を観測した.ドップラーライダーは大沢野消防署の屋上に設置し,高度260 mまで,空間解像度40 m,10分ごとに観測した.
 本研究は,2016年3月25日夜から3月26日昼にかけて発生した山谷風・海陸風循環を解析対象とする.3月25日の午前中は,富山平野で降水が発生していたが,午後にはやみ,26日の早朝には晴れていた.この時,移動性高気圧が日本を覆っていた.
 観測データから,3月25日は17時まで,高度40m以上において風速4 m s-1程度の北風が卓越していたことが分かった.日中,降水が発生していたことから,この北風は総観規模の気圧傾度により発生したと考えられる.この北風は17時以降に弱くなり,20時に高度40 mで南寄りの風,すなわち山風が発生し,翌朝まで吹き続けた.一方で,高度160 mでは,21時から翌日(26日)1時の間のみ西風が吹き,それ以降は南風となった.これらの結果から,山風の厚さは時間経過とともに増大し,最大で160m以上あったことが推察される.山風は6時ごろに最も強くなり(高度40 mで7 m s-1程度),その後,8時に急速に衰退し,9時30分には北寄りの谷風が吹き始めた.
 富山(海岸線から約5㎞,山から13㎞の位置)と秋ケ島(海岸線から約11㎞,山から約7㎞の位置)のAMeDASデータを用いて,南寄りの風(すなわち,陸風か山風),もしくは北寄りの風(すなわち,海風か谷風)が発生した時刻を調査した.その結果,富山では25日21時に南寄りの風が発生しことが分かった.ただ,この時刻に大沢野消防署で観測された山風は非常に弱く,山風が富山に到達するために,約3時間必要である.したがって,この富山の南風は陸風であったと考えられる.一方で,富山で北寄りの風は26日10時に発生し,秋ケ島では26日11時ごろに発生した.秋ケ島における北寄りの風の発生時刻が,富山と大沢野におけるそれと比べて遅いため,海風と谷風は,発生段階において分離していたと言える.
 以上の結果は,たとえ非常に狭い富山平野であっても,海陸風と山谷風は,発生段階では個別に発生し,結合していないことを意味している.
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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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