日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S305
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発表要旨
沖積平野を対象とした地形分類の問題点
*小野 映介
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抄録

Ⅰ.はじめに
近年,自然災害への社会的関心の高まりを背景として,地形に注目した新聞・テレビ報道が多くなされるようになった.とりわけ,沖積平野を構成する氾濫原の微地形は,河川氾濫や地震時の液状化と関連することから,取り上げられる機会が多い.しかし,氾濫原の微地形を対象とした研究は盛んに行われているとは言い難く,地形分類については問題点が残されている.
本発表では,問題点を提示するとともに,その解決のための素案として「階層的地形分類」を紹介する.
Ⅱ.平成27年9月関東・東北豪雨と平成28年熊本地震に関する研究や報道における微地形の扱い
2つの災害を検証する際に,インターネットで閲覧可能な「国土地理院土地条件図」や「国土地理院治水地形分類図」が研究者や報道機関によって用いられた.
平成27年9月関東・東北豪雨では,鬼怒川左岸(茨城県常総市三坂町地先)における堤防の決壊が注目された.破堤地点の周辺に発達する微高地は,数値地図25000(土地条件)では自然堤防,治水地形分類図-更新版(2007~2014年)では微高地(自然堤防)および砂州・砂丘に分類されている.しかし,鬼怒川左岸に見られる微高地は,河畔砂丘とクレバススプレーが主体となって形成されたものである.氾濫原の微高地=自然堤防という分類は,他地域でも見られる.こうした分類は,地形学的見地からすると違和感があるが,全国統一基準の項目で分類を行う際には仕方のないことかもしれない.ただし,微地形は当地の地形発達の「癖」を示す場合が多い.例えば,クレバススプレーの発達する鬼怒川左岸では,破堤のポテンシャルが高いことが示唆される.そうした,地形の成因と発達史に関する知見を地図に組み込むことができれば,治水対策に生かされるかもしれない.
また,平成28年熊本地震では,白川と緑川の間における液状化が問題となった.液状化の集中域は,数値地図25000(土地条件)の自然堤防,治水地形分類図-更新版(2007~2014年)の微高地(自然堤防)と一致することから,「自然堤防で液状化が発生した」という報道があった.しかし,白川と緑川の間に発達する帯状の微高地は,地形学的には蛇行帯と解されるべきであり,液状化は蛇行帯を構成する1つの要素である旧河道で発生したとみられる.
両図を用いる際には,それらが「主題図であること」,「デジタル化を経て分類項目の簡素化が進んでいること」を踏まえる必要がある.
Ⅲ. 階層的地形分類
地形を分類するという作業は地形研究の根幹であり,古くから研究が進められてきた(小野2016).空間・時間・成因を考慮した統合的な地形分類を行おうとした中野(1952)はLand form Typeの概念のもとで「単位地形から出発して,地形区,さらに地形表面をカバーしようとする」分類方法を示した.ここで注目されるのは,地形に階層性(Area>Group>Series>Type)を持たせた点である.その後,沖積平野を対象とした地形分類は大矢(1971)や高木(1979)などの議論を経て,高橋(1982)による系統樹の概念に至った.系統樹によって地形面>地形帯>微地形を捉える階層区分は,地形発達過程を考慮したものとしては,現時点で最も矛盾の少ない分類手法の1つである.
例えば,氾濫原と後背湿地という2つの地形用語は,しばしば混同されるが,地形を階層的に捉えた場合,氾濫原は扇状地やデルタなどと並んで,後背湿地の上位に位置づけられる.したがって,氾濫原と後背湿地が並立する分類図を認めない.また,ポイントバーやクレバススプレーを事例にすると,前者はリッジやスウェイルなど,後者は落堀(押堀)やローブの集合体として捉えられる.

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