日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P224
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発表要旨
南九州の臨海平野の地形と完新世の地殻変動
*森脇 広永迫 俊郎吉田 明弘松島 義章
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抄録

南九州の鹿児島湾奥を占める姶良カルデラ周辺には,完新世の海成段丘が特徴的に分布している.これまで演者らは,その地形と構成物質の調査から,完新世において姶良カルデラ内の西よりの位置を中心として最大10mほどのドーム状隆起をしていることを明らかにし,これと姶良カルデラの火山活動との関係を論じた(Moriwaki, et al.,2015など ).
 こうした姶良カルデラの完新世の隆起の背景を,広域的視点から検討するために,姶良カルデラを含む火山構造性陥没地からなる鹿児島湾の沿岸や,さらに陥没地外の大隅半島太平洋沿岸や薩摩半島東シナ海沿岸において,平野の地形とボーリング掘削による構成堆積物の調査を行ってきた.今回報告するのは,姶良カルデラに近い鹿児島湾中部東岸の垂水平野と中部西岸の谷山平野,姶良カルデラから離れ,阿多カルデラ縁辺にある鹿児島湾南部東岸の大根占・根占平野と南部西岸の喜入平野,火山構造性陥没地外にある大隅半島太平洋岸の肝属平野と薩摩半島東シナ海沿岸の諸平野である.これらの場所で,完新世最高海水準の高度の知見を得ることを主目的として,地形分類と地形高度調査,さらにボーリング掘削を行った.今回はこうした地形と堆積物観察から,南九州を俯瞰した完新世の地殻変動の概略を予察的に検討し,姶良カルデラの隆起の背景を考える.
 垂水平野:垂水平野は,海抜高度5~10mの段丘地形が認められる.この段丘上の2地点で深度10mと20mのボーリングを行った.堆積物は,砂礫を含む淘汰の悪い氾濫堆積物や土石流堆積物で,段丘面が相対的高海面に対応して形成された痕跡は認められない.
 谷山平野:段丘地形は認められない.海岸側には砂丘の載った比較的広い砂州があり,この背後の台地崖下の低地遺跡発掘に伴う堆積物の観察では,現海面付近まで河成の砂礫堆積物からなっている.
 大根占・根占平野:高度10mほどの段丘地形が認められる.大根占平野での深度20mのボーリング掘削では,有機物を多く含む土石流堆積物が現海面下まで存在する.根占平野での深度30mの掘削でも,現海面上に明瞭な海成泥質堆積物や,貝化石を含んだ堆積物は認められない.
 喜入平野:標高5m以下の低湿地で,段丘地形は認められない.2地点での深度10mと20mのボーリング掘削では,貝化石・テフラを含む泥質堆積物は現海面より上には認められない.
 肝属平野:海岸側に規模の大きい志布志砂丘の載る砂州地帯と背後の広い湿地性の低地が分布する.この砂州地帯のもっとも内陸にある大塚砂州で池田テフラ(6400年前)に直接覆われる海浜堆積物の高度は約5mである.
 薩摩半島東シナ海沿岸の平野:南部の万之瀬川低地は海岸沿いの砂丘帯と背後の低地からなる.内陸側の上水流遺跡では,縄文前期の曽畑式土器を含む河床砂礫堆積物が現海面付近にまで分布する.北方の市来貝塚の載る台地付近の低地での最高海面高度は1.4m(3000年前)である(森脇ほか,2002).
 考察とまとめ:姶良カルデラ周辺以外の大隅・薩摩半島沿岸では,現海面上に確実に海成の痕跡とみられる堆積物や地形は高度約5m以下で,著しい隆起は認められない.鹿児島湾東岸の平野は段丘化しているが,段丘面は基本的には相対的高海面に対応して形成されたものではない.巨大噴火を経験している阿多カルデラの周辺には完新世において顕著な隆起は認められない.以上の点から,姶良カルデラの完新世の隆起は,南九州では姶良カルデラ特有の現象で,これまで論じてきたように,姶良カルデラの火山活動と密接に関連したものであると考えられる.今後,堆積物の微化石分析,テフラ分析・C-14年代測定を行って,古環境・旧海水準とその年代を明らかにし,確度の高い検討を行う予定である.

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