抄録
本稿では,広汽トヨタ社を事例として日系自動車メーカーの中国市場におけるディーラーの分布と修理・メンテナンス用部品の管理システムについて検討していく.調査手法として,広汽トヨタ社のあるディーラーを通じて,ディーラーの全国的な分布状況と部品物流倉庫の立地状況,修理・メンテナンス用部品のストックの状況や配送システム等についての情報を入手した.調査結果として,同社は全国に437店舗のディーラーを持つが,人口比や自動車登録台数比を考慮しても,ディーラーの進出が沿海部に偏っており,近年,自動車の需要が高まっている内陸部への進出が遅れている.この要因の一つとして,十分なアフターサービスを行える資金力のあるディーラーを確保することが難しい点が挙げられる.同社では,ディーラーには修理・メンテナンスに必要な部品のうち,最低でも1,500点以上の部品をストックさせる方針を採っており,ディーラーに資金力が必要になる.また,メンテナンス用部品を交換する際には,短期的な利益を追求するよりは,顧客に十分な説明と同意を得ることで顧客満足度を高めることを重視している.そのため,同社は現状では,販売台数の拡大を目的として内陸部への進出を急ぐだけでなく,アフターサービスの質や満足度を高めることを重視している.結果として競合する外資系メーカーに比べると販売網の拡大は遅れており,特にディーラー確保の難しさが指摘できる.