日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 115
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発表要旨
屋上菜園の立地からみる都市農業の発展過程
*中岡 雄一郎
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抄録

Ⅰ.目的と方法
 屋上菜園は、建物屋上またはベランダで農作物が栽培されている施設を指す。近年、ロンドンやパリ、ニューヨーク、日本でも東京や大阪など大都市圏を中心として屋上菜園を開設する動きがみられている。屋上菜園に関わる人々は市民の他に企業や教育機関、医療福祉など様々であり、農作物も野菜、米、養蜂など多岐にわたる。
 これらの現象を屋上の利活用としてみた場合、屋上緑化との関連が考えられる。屋上緑化は主に都市のヒートアイランド現象の対策として用いられ、東京都では2001年に屋上緑化を義務付ける条例が施行された。しかし、屋上菜園は「緑地」として認められないケースが多い。それにもかかわらず、義務面積外で設置し、あるいは緑地として設置するにしてもわざわざコストのかかる屋上菜園を選択することに疑問が残る。他方で非農家の活動に着目すると、地理学では市民農園や体験農園など非農家の関わる都市農業の立地は都市部における農地の保全という文脈で語られてきた。よって、「農地」ではない屋上菜園ではその立地要因を説明できない。
 そこで本研究では屋上菜園の立地要因を明らかにし、現代的な都市農業に新たな視点を与えることを目的とする。研究対象は東京都区部における屋上菜園とし、分布の地域的差異や政策的背景を検討するとともに、運営者や利用者への聞き取り調査から、屋上菜園のニーズを検討した。
Ⅱ.東京都区部の屋上菜園
 ホームページやSNS等で屋上菜園を公開している施設は東京都区部においては2017年10月の時点で88か所確認できた。屋上菜園の開設件数は2000年以降に増加し2009年前後にピークとなる屋上緑化の施行件数の推移と似た傾向を示すことから、屋上緑化政策との関わりが示唆される。
 建物種類別に分布をみると、企業の事務所やデパートなど小売店舗の屋上菜園は千代田区、中央区、渋谷区などの都心の地価の高い商業地に集中している。これらの施設ではCSRの一環として一般開放した屋上庭園の一部を利用したもの、地域住民や近隣の教育機関に区分貸出、米や野菜の収穫祭などのイベントを行うなど多様な形態がみられた。教育施設や医療福祉施設の屋上菜園は都心から離れた周辺の区か都心でも駅から離れた住宅地の中に立地している。利用者は建物施設の利用者であり、開設の目的は利用者への教育や生きがいの創出などであった。よって、いずれの施設にとっても屋上菜園を開設することが当該企業・団体の本来のねらいを果たす効果があることが立地要因の一つと考えられる。
 次に、千代田区と渋谷区にある屋上菜園の利用者の言説からは、利用の動機や目的が余暇活動や農業への関心、子どもの教育などであった。また、自宅や職場に近いことが利用頻度に影響している。これらのことから都市農業に関わる非農家と同様のニーズが都心にも存在し、屋上菜園がそのニーズの空白地を補完する役割を担っていると考えられる。

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