主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2019年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2019/09/21 - 2019/09/23
本研究は、長野県東御市を事例として、ワイン産業の展開、特に小規模ワイナリーが近年発展する要因を明らかにすることを目的とする。ワイン産業について地理学は昔から関心を抱いてきた。その研究は海外で多く、中でもディオン(1997)のようにワイン大国であるフランスなどで数多く見られる。一方、日本ではワインの重要性が低かったためか、菊地(1983)の研究などは有るが、海外と比較して研究蓄積は少ない。また、それらの研究は、ブドウ栽培、ワイン醸造資本、両者の結合関係などを個別に対象とした経済地理学的なものが多い。これは、日本のワイン産業が、原料であるブドウ栽培、ワインの醸造・販売をそれぞれ異なるアクターが担う構造であることを反映していると思われる。ここ数年、日本の一部農業地域では、小規模ワイナリーを中心とする新規ワイナリーの参入が相次ぎ、地域によっては多数のワイナリーが点在する景観が見られる。このようなワイナリーは、個人・家族経営が主であるが、栽培・醸造・加工までを一括して行う点に特徴がある。また、それに付随して、地域においてフードツーリズムや飲食業の展開も観察されている。先行研究を踏まえると、上記の形態のワイン産業に関しては研究蓄積が少ない。加えて、上記のようなワイナリー進出に伴う産地の展開を説明するものも管見の限り見られない。地表の人間活動を空間的視点から説明づけようとする地理学においては、このような新規の農業活動を地域的視点から考察することが求められる。調査地域として、近年小規模ワイナリーの展開が多く見られる長野県東御市を選定した。当地域は千曲川の中流域に位置し、2004年4月に東部町と北御牧村が合併して誕生した。人口は30107人(2015年国勢調査)で、古くは養蚕・育桑業が栄えたが、衰退後はリンゴ・ブドウ・クルミを中心とした果樹産業が農業の基幹となっている。同地域では2003年に1件のワイナリーが開設された後、2019年現在までに小規模ワイナリー9件が新規参入している。それらは栽培・醸造・販売を一手に扱い、試飲カウンターやレストラン等を敷設するものもある。また、自身はワイナリーを所有していないが、栽培したブドウを地域内外のワイナリーへ委託醸造し、自身のブランドとして販売している生産者も複数存在する。市はワイン特区への指定、就農支援制度の確立、ワイナリーを周遊する交通機関の整備など、こうした動きを支援している。