日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 424
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発表要旨
兵庫県の地籍編製地籍地図
*古関 大樹
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抄録

1.はじめに

 明治の地籍図は,大蔵省と内務省2つの系譜がある。大蔵省の調査は租税改革を目的とし民有地が主対象であったのに対し,内務省の地籍編製事業は官有地を含めた調査を前提とし,地種の整理や接続町村の境界画定を重視した。各府県は内務省に「地籍」を提出し,近代移行期の国土把握の性質を帯びていた点が注目されている(島津2008年)。

 しかし,内務省の地籍編製は,近代移行期の国家的な土地調査であるにも関わらず,全体像がよく分からない事業である。内務省の指示は,明治7年12月に出されたが,実際には大蔵省の地租改正事業が優先され,明治10年の西南戦争の予算不足から多くの府県で中断となった。一部の府県では地租改正の成果を流用し,「地籍」の編纂が行われたが地図作製は本格的に行われなかった。内務省地理局は,明治16年に事業の再開を促し全国的に地図作製が進んだが,明治23年に同局が廃止となり,全国から収集された資料の所在も今のところよく分かっていない。

 確認できた範囲では,①明治8~9年に編纂した「地籍」を改訂して明治22年まで引き継いだ府県(宮城県),②明治16年より前に開始した府県(大阪府・福島県など),③明治16年~22年に実施した府県(滋賀県・岐阜県など),④途中で事業を断念した府県(京都府など)。⑤明治22~23年に実施した府県(奈良県)という地域差がみられる。

2.兵庫県の地籍編製事業の展開

 兵庫県庁文書は戦災被害を大きく受けており,地籍編製事業に関するものはほとんど伝わっていない。しかし,加古川総合文化センターが県から伝達された「地籍編製心得書」(明治9年12月13日,甲第120号)を所蔵しており,県の方針を確認することができる。これは事業の具体的な手続きを定めたものであるが,各府県に伝達された内務省の「地籍編製地方官心得書」(明治9年5月23日)は,6章15条である。これに対して兵庫県の心得書は,15章80条と大幅に内容が増えている。内訳は,次の通りである(カッコ内が条数)。

 第一章「土地經界釐正」(3),第二章「字并番號」(2),第三章「地名并名請」(2),第四章「地図」(7),第五章「田畑宅地社寺」(2),第六章「畦畔并崖岸」(10),第七章「道路」(7),第八章「堤塘」(7),第九章「溝渠河川」(11),第十章「池澤沼湖」(2),第十一章「山岳原野」(2),第十二章「荒地新墾墳墓地等ノ類」(3),第十三章「沙濱島嶼」(5),第十四章「丈量及其帳製」(3),第十五章「村町地籍編製職員」(11)。

 下線が内務省布達の章と対応するが,兵庫県で増えた項目は調査対象や丈量方法などを詳しく記したものであり,実際の調査を意識して内容の充実化が図られたと考えられる。管見の範囲では,県内の地図の年紀は早いものが明治12年~13年,集中する時期は明治15年であり,全国的にみても非常に早い。明治15年7月24日には,大阪府が「地籍編製心得書附地誌編纂」を管下に伝達したが,条文の構成は兵庫県と同じ15章80条である。大阪府の地図は,兵庫県のものとよく似ており,モデルになった可能性が高いと考えられる。

3.兵庫県の地籍編製地籍地図の特徴 

 明治9年の兵庫県の「地籍編製心得書」には,一村全図と字限図の雛型が添えられており,県内で確認される地図もこれに従っている。字限図は,外周の屈曲点を朱線で結び丈量値(方位と間数)が記され,一筆内の畦畔も描かれている。字限図を接続した一村全図も村界の丈量値が記されており,この時期の地図としては非常に精巧である。全国の先駆けとなるべく,詳細な土地調査と地図作製が行われたと考えられるが,景観復原の重要な資料として高く評価できると思われる。

〔付記〕本研究を行うにあたり,兵庫県土地家屋調査士会に資料調査の協力をいただいた。また,日本土地家屋調査士会連合会研究所の研究費と科学研究費(平成30年度:奨励研究)の協力を受けた。付して御礼申し上げたい。

【主な参考文献】

・島津俊之(2008),『明治前期地籍編製事業の起源・展開・地域的差異』(平成17~18年度科学研究費補助金基盤研究(C)研究成果報告書)

・飯沼健吾(2017),「岐阜県の地籍編製事業と公図との関係」,2017年度日本地理学会秋季学術大会発表要旨集。

・古関大樹・福永正光(2018),「奈良県下における地籍編製地籍地図」,日本地理学会2018年度秋季学術大会発表要旨集。

・古関大樹・江本敏彦・高橋順治(2019),『近畿地方の旧公図の成り立ちに関する調査研究』,日本土地家屋調査士会連合会研究所

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