日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P022
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発表要旨
転作が地下水の水位・水質に与える影響
*宮岡 邦任清水 将彦
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抄録

Ⅰ はじめに

 近年の涵養域における水田の減少は、流域における地下水の水位低下に大きな影響を及ぼしていることは、国内の複数の地域で報告されている。三重県では水田から小麦や大豆に転作が行われている地域は確実に拡大しており、他地域と同様に転作が地下水の水位や水質に影響を及ぼしていることが考えられる。流域における地下水資源管理を考えたときに、対象地域における地下水流動の実態と過去から現在にかけての転作と地下水の物理化学的特性の変化とその関係性を明らかにしておく必要がある。本研究では、三重県北勢地域を流れる員弁川中流域(東員町、いなべ市)を研究対象地域として、地下水涵養域の近年の転作の状況と涵養域から流出域までの地下水の物理化学的特性への転作の影響について調査した結果を報告する。

Ⅱ 対象地域の概要

 本研究対象地域は、三重県北勢地域を流れる員弁川の中流域(桑名市西部、東員町、いなべ市東部)左岸の藤川、戸上川流域を主とした地域である。地形は、員弁川が形成した低位から高位の3つの段丘面に分類される。地質は扇状地性の砂礫層で構成されており、水はけは非常に良い。近年、水田から小麦および大豆への転作が進んでいるほか、農地から宅地への変更が進んでいる地域もある。

Ⅲ 研究方法

 研究対象地域において民家および農業用井戸32地点、戸上川2地点、員弁川2地点において測水調査と採水を行った。調査は2018年8月と12月に実施した。現地において地下水位、電気伝導度、水温、pHを測定し、三重大学教育学部地理学実験室においてイオンクロマトアナライザを用い、主要8元素(Ca2+、Mg2+、Na+、K+、SO42-、NO3-、Cl-、HCO3-)の分析を行った。民家井戸32地点のうち6地点については、水位、水温、電気伝導度センサーを設置し、継続観測を行った。転作の状況の把握については、いなべ市および東員町の転作に関する資料を使用した。

Ⅳ 結果と考察

 2018年8月と12月の地下水位の分布は、地域によっては最大で2m程度の季節変化が認められた。電気伝導度の分布は、河岸段丘上位面から下位面にかけて値の高い流れと相対的に値の低い流れが存在することが判明し、高位面から低位面にかけての地下水の水みちがあることがわかった。このうち、高位面から低位面を流れ員弁川に注ぐ戸上川の右岸側の中位面に掘削された民家井戸では、夏季の地下水位には大きな変化は認められなかったが、冬季の地下水位が2015~2016年冬季と比較して約3年間で0.5m程度低下しており、特に2018~2019年冬季の低下が顕著であることが認められた。また、戸上川左岸側については、2018~2019冬季の地下水位に、前年同期と比較して1m以上の低下が認められた。

 2008年~2017年の水田からの転作規模の変化についてみると、研究対象地域における転作の際の栽培作物は主に小麦であった。年によって地下水流動の上流部にあたる高位面の栽培規模にはかなりの面積の違いがあるが、一貫して転作が行われている実態が認められた。戸上川の右岸側(約1.5km2)と左岸側(約1.2km2)の地域につい転作面積の経年変化をみたところ、2008~2017年の各年において戸上川右岸側の地域では水田の約20~60%、左岸側の地域では約5~25%で転作が行われていた。過去10年間の年間降水量はほぼ変化していないことから、涵養域にあたる上位面から中位面における転作による地下への浸透量の減少が、地下水流動の下流にあたる中位面から下位面における地下水位の低下の原因の1つであることが示された。

 戸上川左岸側地域については最近の水位の低下に対して転作面積が大きくないことから、この地域において転作以外の地下水位低下の原因を探る必要がある。

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