1.はじめに
長野県長野市街地は長野盆地の北西端に広がり,その北西側には裾花川が刻むV字谷の谷口が位置する.その谷口から吹き出す強い北西風が,主として晴天夜間にしばしば観測される.我々のグループでは,この強い山風の詳細な立体構造や形成過程等を明らかにするため,2017年10月と2018年11月に2回,ドップラーライダー(以下,DL)やGPSゾンデ等を用いた集中観測を実施した.2017年10月の観測結果については2018年春季大会にて,最大で250〜300 mの厚さの山風が夜間に観測され,ピーク時には谷口から約1 km程度まで山風が侵入したことなどが示された.今回は,2018年11月に実施した集中観測で捉えた山風事例の特徴について,観測結果を中心に報告する.
2.観測の概要
集中観測期間は,2018年11月2日18時から3日18時までとした.2台のDL(LR-S1D2GA:三菱電機社製)を,裾花川谷口付近に位置する長野商業高校グラウンド(以下,長商;標高約390 m)およびそこから東北東約0.4 kmに位置する信州大学長野キャンパス理科棟屋上(以下,信大;標高約410 m)にそれぞれ設置した.長商DLでは,北西–南東方向に沿ったRHI走査を行なった.視線方向の距離分解能は150 mであるが,オーバーラップさせてデータ間隔を37.5 mとし,最大787.5 mまでのデータを取得した.時間分解能は約5分である.長商,信大の両地点には,複合気象センサーWS500-UMB(Lufft社製)を地上(屋上面)から約1.5 mの高さに設置した.観測項目は風速・風向,気温,湿度,気圧であり,サンプリング間隔は約1秒とした.風向風速センサーは二次元超音波式である.さらに長商においては,GPSゾンデ(iMS-100;明星電気社製)を集中観測期間中に1.5時間間隔で計17回放球し,温度,湿度および風の鉛直プロファイルを観測した.
3.結果および考察
集中観測期間における長商の10分平均風速・風向および最大瞬間風速の時系列を見ると,2日夕方以降3日7時30分頃まで,風向は西北西でほぼ固定され,風速は最大で3〜5 m/sと比較的強く,裾花川谷口からの山風が吹いていたと考えられる.山風は2日22時前後が極大と見られ,3日1〜2時頃にはやや弱化が見られる.長商から東北東に約1.6 km離れた長野地方気象台(標高418 m)では,夜間の風向はほぼ西風であったが,風速は測定高度(気象台では地上高18.8 m)を考慮すると長商よりやや弱い.
2日夕方〜3日朝にかけての地上付近の温位プロファイルの時間変化見ると,地上付近の強い安定層が2日18時にすでに現れており,時間とともに成長している様子が見られる.山風ピーク時間に近い2日22時30分には,強安定層が地上から約150 mの厚さとなり,地上と上空150 mとの温位差は約7 Kに達する.22時30分の風の鉛直プロファイルを見ると,強安定層の風向はほぼ西風で風速は強く,ピークは地上高約50 mにあり約12 m/sを示す.長商DLでのRHI観測結果では,地上付近の強風層の厚さは約150〜200 m程度と見積もられる.RHIからは,強風層の厚さが谷口から離れるほど薄くなる傾向も見られた.
今回観測された,裾花川谷口から吹き出す山風とみられる強風層の厚さは約150〜200 mであり,2017年10月の事例や他のこれまでの報告に比べてやや薄い.強風は寒気移流を伴い,寒気の強さと風速が関連していると思われ,重力流の特徴が示唆される.今後,信大DLの観測値や数値モデル結果などにより,本事例における山風の形成メカニズムを考察していく予定である.