主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2019年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2019/09/21 - 2019/09/23
1 はじめに
都市特有の気候であるヒートアイランド現象やそれに伴う気圧や相対湿度の変化などを観測する際には,現象の空間スケールが小さいために多地点での観測が必要である.そのためには,多数の測器を準備する必要があるが,最も安価である小型のロガー付きの温度計でも最低1〜2万円程度かかり,気圧や相対湿度を観測するためには,別の観測測器が必要となり,金銭コストが大きくかかる.酒井ほか(2009)では独自に気象観測装置を開発し,短期間の都市気候研究のための観測に使用できるシステムを紹介している.これに対して,本研究では長期の観測に耐えるシステムを目指し,装置のIoT化および太陽光パネルからの給電を行うことを考えている.IoTによりリアルタイムに空間的に高密度な気温,湿度,気圧のデータが得られれば,短時間強雨などの局地的現象の発生要因などの解明に役立つ可能性がある.また,既製品の安価な測器では観測データの保存データ数が少ないことから,観測間隔が長くなってしまう問題点もある.そこで,IoT化の一歩手前の観測装置のSDカードに大量のデータを保存できる独自の気象観測装置を試作したので,その観測精度について発表し,発表の場にて将来的な都市気候研究への応用についても議論したいと考えている.
2 試作型気象観測機器
入出力(GPIO)ポートを搭載したマイコン(Raspberry Pi3 Model B+)に入出力ポートに温度・温湿度・気圧センサーを接続し, SPIまたはI2Cでマイコンと通信してマイコンのSDカードにデータを記録する気象観測装置を試作した(図,表).
温度センサーにはサーミスタを用いて,16ビットのADコンバーターを介してSPI通信でマイコンにデータを転送する.温湿度センサーおよび気圧センサーはデジタル出力をI2C通信でマイコンにデータ転送する.観測データの記録間隔は10分であるが,マイコンとセンサーの間の通信は1分ごとに行い,10分間の平均値を記録するようにプログラムした.これは,センサーの観測誤差を少なくするためである.
都市気候の解析に耐えうる観測精度として,温度センサーは±0.1℃,湿度センサーは±1.5%,気圧センサーは±0.1hPaを目指した.センサーのスペックおよびマイコンでの出力における分解能はこれらの精度を目指せるものであるので,センサーとマイコン間の通信においてノイズの影響を受けないように回路を設計し,既存の高精度の気象観測測器と比較することで観測精度を検証する予定である.この結果を学会にて発表する予定である.