主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2019年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2019/09/21 - 2019/09/23
1.はじめに
房総半島の脊梁部に源を有し,東京湾に注ぐ主な河川のうち,湊川はその下流域において,最も西を流れ他の河川とは地質や隆起量など異なる特徴をもつ.この湊川下流域における,おもに最終氷期最大海面低下期以降の地形発達について,その発達要因を考察することを目的とした.
2.研究対象地域をめぐる地域概要 房総半島の脊梁部を主な水源として,東京湾に注ぐ主な河川に,養老川,小櫃川,小糸川,湊川がある.南上がり傾動を示す半島中部域において,第四紀中期更新世以降の,東京湾北部などに沈降の中心がある関東造盆地運動が開始されると,それまで延長河川として伸びてきた上述の河川は,北西方向に流路を変えるようになったと考えられている.
上述の流路の状況が典型的に見られるのが養老川,小櫃川,小糸川であり,氷河性海水準変動を主要因として形成を見た後期更新世の海成~河成の木下面(下末吉面相当)・姉崎面(小原台面相当)・市原面(三崎面相当)や完新世の河成の南総面などが,中・下流域を中心に見られ,河口域には三角州が発達する.
ところが,現湊川は,他の河川のように第四紀中期更新世以降の地層の分布域まで流れを延長していない.中流域の第四紀初期更新世の地質域における,主要な3つの流れを合流するあたりから西流に転じ,第三紀層の基底層である黒滝不整合層などにほぼ沿うようにしながら東京湾に注ぐ.その最下流域では,川沿いに基盤岩が長く露出する崖が見られるところがあり,また海食地形が発達し,北側には,砂礫層を堆積させる標高約30mと約50mの更新世末の洪積世段丘が迫る.他の河川と同様に,完新世の低地(富津Ⅴ面)が下流域に発達するが,それらは標高約20mと高く,より低位の2~3段の段丘も発達し,河口域には三角州の発達を見ない.
なお,湊川の河口付近は大正関東地震時,約1m隆起したとされる.
3.方法
湊川河口部から直線距離約4.5㎞の地形的な狭窄域よりも下流を湊川下流域とし,この範囲を主な対象地域とした. ① 地形区分図および段丘面の投影縦断図を作成した.
② ボーリング資料(千葉県地質環境インフォメーションバンク資料,富津市公共施設資料,NEXCO東日本提供資料)を収集,分析した.また,海食地形を含めた段丘段丘露頭を調査し,地質柱状図を作成した.
③ ①・②で得た資料をもとに,湊川下流域における最終氷期最大海面低下期,海進最盛期,小海退~現在の状況について考察した.また,小櫃川,小糸川における完新世地形に関する先行研究からわかるこれらの地域の地形発達の特徴と比較した.
④ ③で得られた湊川下流域の完新世を中心とした地形発達の特徴が生じた要因を,氷河性海水準変動や地殻変動から考察した.
4.結果
1)湊川河口から直線距離約1.9㎞地点では,基盤泥岩の深さが判り標高約-22m,この上位には基底礫層,縄文海進期の堆積と考えられるシルト~細砂層,さらにその後の海退期細砂層が堆積する.これよりも下流域では基盤岩層はより深く,その深さは不明.
2)縄文最大海進期の堆積層の標高は約20mで,その後~現在まで蛇行を伴いながら形成された2~3面の低位段丘が見られる.
3)縄文最大海進にあっても基盤岩が高い位置にある地帯が存在し,現流路はそのような岩盤域地帯を侵食しながら流れている.
文献 中嶋輝允・渡辺真人2005.富津地域の地質.独立行政法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター.
貝塚爽平1987a.関東の第四紀地殻変動.地学雑誌 96-4 59
貝塚爽平 1998. 『発達史地形学』東京大学出版会.
小松原 琢・中澤 努・兼子尚知 2004. 木更津地域の地質.独立行政法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター.