日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 211
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発表要旨
中国四川省の農村地域における震災後農村住宅構造類型の変容
*黄 璐
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抄録

2013年4月20日の最大震度7を記録した中国四川省で発生した芦山地震は,4月24日午前10時まで徐々に減衰しながらも余震4,405回以上にわたって続いた。芦山地震の人的被害は,死者196人を含め死傷合計12,317人であり,建物にも甚大な被災が及び,対象地域の住民に深刻な影響が及んだ。当地域には主に伝統木造構造,レンガ混用構造と鉄筋コンクリート構造という3種類の住宅構造が認められた。それらのうち,レンガ混用構造は農村地域で現存している最も多い構造類型であり,同時今回の地震で被害も一番多かった構造である。

 本研究では,芦山県の中心部芦陽鎮,震源地龍門卿と山奥に位置する太平鎮三つの地区を代表として農村地域の住宅構造に焦点を当て,地震被害の影響を確認すると共に,住宅構造類型と被害程度との関係と,復旧の過程で農村住宅構造におけるどのような変容が発生したかを示すことを目的とした。

 芦山地震において,対象地域における現地調査と聞き取り調査を行った。まず,地域内の各構造の被害状況と被害特徴を確認して,住宅構造類型と被害程度との関係も明らかにした。各構造の耐震機能について詳細な評価を行うために,対象地域内で選定した住宅計120棟を,各自の被害状況におじて類型化し,さらに住宅構造類型別の被害率と,被害程度別を全体に占める割合を求めた。また,レンガ混用構造住宅の耐震性が他の二種類の構造より弱いと指摘できる。

 農村地域の住宅構造と住宅被害の関係を分析した上で,農村住宅構造の耐震機能が低下した原因も聞き取り調査により確認できた。2018年6月に対象地域への追加調査結果により,芦山県農村地区において,かつ急傾斜地の川沿いに存在していた住宅は安全な土地で立て直されており,家を失った世帯もほとんど仮設住宅から引っ越していた。さらに,かつて被害が集中していたレンガ混用構造は復興が進み,減少していた。一部損壊を受けたレンガ混用構造では,補修が施されて引き続き居住されており,状況はかなり改善していた。

 地方行政は震災直後に応急住宅・仮設住宅を建て,住宅が全壊した世帯を優先的に入居させた。一方,一部損壊が受けた世帯は,ほぼ自分であるいは地元の経験者を頼んで住宅を修繕してそのまま現地で住み続けていた。応急住宅・仮設住宅に居住する期限もあるものの,新しい家を建てるのは全くできていない状況にある。これに応じて,地方行政は計画土地で集中的に公営住宅を建て,地域住民はほぼ半額で購入できるような政策を実施した。

 対象地域の住宅構造の形成に関しては,当地域の自然・経済環境と緊密な関係がある。雅安市は四川省の中西部の山地地区に位置しており,うち四川盆地からチベット高原への移行地帯にある芦山県は平均海抜2000mに近く,地震による二次災害が発生する可能性が高い。このような自然環境は,住宅の構造類型、規模または品質に大きな影響をもたらした。

 これらのことから,損傷を修繕した住宅は元の構造を維持したが,再建した住宅はほぼ鉄筋コンクリート構造に転換されていた。調査対象地域以外,雅安市において他の被災地にも同じ政策で復興活動を推進し,レンガ混用構造は全体に占める率もかなり低くなると推測している。

 また,芦山地震で被害を受けた建物の中でレンガ混用構造の被害が最も甚大となった要因として,震源地に近く地震断層帯を生じた強震と地域の自然環境、経済発展、住宅建てる習慣など地域の独特な客観的要素による相関が推定されてきた。今回の地震を契機として,復興活動による農村地域においてレンガ混用構造が徐々に鉄筋コンクリート構造に取って代わることが明確になった。これらの変化に従って,農村地域の住宅構造水準と住宅耐震機能も段階的に高まると考えられる。

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