日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P041
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発表要旨
鬼押出し園における風穴小屋の観光資源化に向けた評価分析
高山 侑*鈴木 秀和
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抄録

1.はじめに

 風穴とは、一般的に山地または火山地の斜面において地中の空隙から外気温よりも低温の冷風が吹き出す場所とされている(清水・澤田、2015)。多くの人が思い浮かべる風穴は、その一部が観光用に整備され中に入ることができる、富士山麓に発達する溶岩トンネルである。しかし、このような構造の風穴は富士山麓にしか見られず、かつて蚕種貯蔵を目的に日本各地で天然冷蔵庫として活用されていた風穴の多くは、地すべり地などにおいて岩塊が集積して堆積してできた崖錐斜面の基部にみられる。

 近年、クリーンエネルギーが注目される中で、かつて蚕種貯蔵に使用されていた風穴を整備し、天然の冷蔵貯蔵庫として再活用する試みが各地で進められつつある。長野県小諸市にある氷風穴では、日本酒や蕎麦の実を風穴小屋に貯蔵し熟成させた「風穴貯蔵品」の開発が行われ、すでに販売もされているほか、地元の有志による「氷風穴の里保存会」が中心となり、見学会や観光客へのガイドなども実施されている。2014年6月には、同じ群馬県の下仁田町にある荒船風穴が、「富岡製糸場と絹産業遺産群」の構成資産の一つとして世界遺産にも登録されている。

 今回調査対象とした浅間山北斜面を覆う鬼押出し溶岩流の各所にも、崖錐型の風穴が数多く確認されている(鈴木、2015)。これらの風穴は、集落から離れていたこともあり、戦前における利用実績は確認されていない。しかし、プリンスホテルが運営する「鬼押出し園」では、開園間もない時期に風穴小屋を建て、売店で販売する飲料水を冷蔵するために活用されていた。

 鬼押出し園では、数年前からイベントにあわせてこの風穴小屋の見学ツアーも実施されている。山間地にある他の多くの風穴とは違い、アクセスが良く多くの観光客が集まる鬼押出し園では、より手軽に風穴の魅力を感じてもらうことができるはずである。そこで本研究では、鬼押出し園内の風穴小屋を案内するモニターツアーを実施し、その参加者にアンケート調査を行うことで、観光面における今後の風穴利用の可能性について検討を試みた。

2.鬼押出し園内の風穴小屋について

 かつて冷蔵庫として使われていた風穴は2箇所あるが、今回はアクセスが容易な有料道路脇の風穴小屋を調査対象とした。この風穴小屋は、前室(幅2.6m、奥行2.7m)と一段下がった奥の貯蔵庫からできており、間に間仕切りがある。貯蔵庫は深さ1.6 m 幅2.6 m奥行5.4 m の半地下で、石垣に囲われており、かつてこの貯蔵庫の床下に溜まった冷水を登山客に販売していたこともあった(清水、2019)。また前室には、天然冷蔵倉庫として使われていた頃の名残としてペプシコーラの木箱が置かれていた。風穴小屋の内部は、今回調査を行った8月中旬でも5℃未満と低温環境を維持していた。現在、一般公開に向け照明の設置など内部の整備を進めている。

3.調査方法

 2017年8月11日〜13日に、当時は一般公開されていなかった風穴小屋を見学するモニターツアー(約30分)を行い、その参加者に対してアンケート調査を実施した。ツアーの参加者は3日間で300名以上いたものの、家族連れが多数であったこともあり、実際に得られた有効回答数は107であった。

4.結果および考察

 今回のアンケート調査の結果は、以下のようにまとめられる。

1)参加者の98%はツアー内容に満足していた。これは、ガイドによる解説に加え、自然が生み出す冷気を直接体感できる体験型ツアーであったことが大きな要因であった。

2)溶岩やそれが織りなす自然景観に興味を抱き訪れた来園者のみならず、休憩目的などで立ち寄ったツアー参加者の満足度も高いことから、この風穴小屋が観光資源としての価値を十分に有していることが明らかとなった。

3)風穴を利用した商品には、約9割のツアー参加者が興味をもっていた。風穴貯蔵品や関連商品などの企画開発を行うことで、新たな名産品を生み出すことも期待できる。園内にはそのような商品を販売できる売店もあり、ツアー参加者を中心にある程度の需要は見込めるであろう。

4)アクセスが容易である鬼押出し園は、多くの観光客に手軽に風穴現象を感じてもらうことができることから、風穴の存在やその魅力を一般の人々に広める役割を担うことできる。

 鬼押出し園は、2016年9月より浅間山北麓ジオパークの拠点施設にもなっている。自然が生み出す天然クーラーである風穴は、その独特な植生景観なども含め、ジオパーク活動に積極的に取り入れ活用すべき対象であることが、今回の調査により裏付けられた。また、風穴貯蔵酒やそばなど風穴関連商品の開発を行うことにより、新たな名産品を作り出すことができるだけでなく、クリーンエネルギーの利用という面から、環境教育のツールとしても活用できるに違いない。

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