日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 223
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発表要旨
児童の知覚環境の発達を促す防災教育の構築
*森 康平山縣 耕太郎
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抄録

1.はじめに

 災害時に適切な避難行動をとるためには、児童が地域の充分な知覚環境を形成している必要があると考えられる。しかしながら、 田村・田部(2017)は、児童の身近な地域の範囲内にも関わらず児童がメンタルマップに避難場所を書けないことがあることを指摘している。また、寺本(2006)は、メンタルマップが単線的なままでは、危険を回避する能力が欠けると指摘している。したがって、災害から身を守るためには、必要最低限の地域における道路・避難場所・危険な場所をサーベイマップで書ける能力を養う必要があるだろう。

 そこで本研究は、小学校第3学年及び第5学年の児童を対象にフィールドワーク及び地図上で避難シミュレーションを実施し、児童のメンタルマップがどのように変化するのかを検討することによって、児童の知覚環境の発達を促す防災教育の内容について考察することを目的とする。

2.研究方法

 ⅰ)はじめに、児童が通学する範囲内のメンタルマップを確認するため、白紙に児童が考える学校周辺の地図を手描きで書いてもらいメンタルマップを確認する(1回目)。

 ⅱ)ⅰ)の内容を踏まえ、児童の地域に関する認識が低い場所を中心にフィールドワークを行なう。その中で、児童が避難する際に危険な場所を確認させる。その後、フィールドワークを実施した範囲内で児童に手描き地図を白紙に書かせる。1回目に実施した児童のメンタルマップと比較し、地域の空間認識が養われたかを確認する。

 ⅲ)ⅱ)のフィールドワークを実施した範囲内で逃げ地図を活用した、津波シミュレーションを実施する。児童が地図上で道路閉塞を考慮した場合と、道路閉塞を考慮しない場合でシミュレーションを行い、避難時間にどのような差があるか検討させる。最後に逃げ地図を実施した範囲内でメンタルマップを描かせ、ⅱで実施したメンタルマップと比較して地域の空間認識がどのように変化するのかを検討する。

3.実践授業の内容

 1コマ目の授業は、2018年12月14日に実施した。授業の詳細は、対象地域の危険個所(あわえなど)について簡単に説明した。その後、子どもたちが、地図を見ながら地域を歩き、危険個所を調べさせ、その内容を地図に記入させるようにした。また、各班には、危険な場所については写真を撮るように指示した。学校に戻ったあと、危険だと考えた内容について全員で共有させた。児童における授業時の様子を見ていた際に気付いたことは、以下の点である。研究対象地域は、過去に何度も津波の被害を受けているため、電信柱に過去の津波の浸水深を表示している。児童の身長と過去の津波浸水高を比較させた時には、津波浸水高が児童の背よりも高いことに驚いている児童もいた。また、この学習後の質問紙調査での結果では、危険を見つけるのが難しかったとの意見があった。

 2コマ目の授業は、2019年2月7日に実施した。授業の内容は、1コマ目の復習を行った上で、逃げ地図を取り入れ、児童が何分で避難完了することができるのかシミュレーションさせた。逃げ地図の学習では地域の課題を2つ取り入れた。1つは、1コマ目の授業において子どもたちが危険場所を見つけた中から避難の妨げとなるものについては、避難時に通行禁止とした。2つは、「あわえ」は建物の倒壊により道路閉塞が発生する可能性がある道をさけるように設定した。授業時の子どもの様子を見ていて気付いた点は、次のことである。逃げ地図で避難をシミュレーションしている際に、「この道を通ると早く避難できるけど、細い道が多いから危険」などといった意見があった。なお、道路閉塞が発生する地点については、徳島大学の塚本研究室が作成した建物データ(塚本,2018)にバッファをかけて判断した。

4.手描き地図に関する分析

ⅰ)指定津波避難場所が描かれているか

 第3学年のメンタルマップを見ると、指定津波避難場所をメンタルマップに記入することができた児童は40%であった。指定津波避難場所以外の津波避難場所を描いていた児童は40%であり、指定津波避難場所を描くことができなかった児童は60%であった。

 第5学年のメンタルマップを見ると、指定津波避難場所をメンタルマップに記入できたのは83.3%の児童であった。8割以上の児童が指定津波避難場所を描けているものの、16.7%の児童は指定津波避難場所を描けない結果となった。

ⅱ)小学校から指定津波避難場所の道がつながっているか

 第3学年のメンタルマップを見ると、約7割の児童は小学校から指定津波避難場所までの道のりがメンタルマップに描かれていた。しかしながら、28.6%の児童はメンタルマップ上に津波避難場所を示しているだけで、道のりは描かれていなかった。第5学年のメンタルマップでは、90%の児童が小学校から指定津波避難場所までの道のりをメンタルマップに描画していた。

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