日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 212
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発表要旨
ICTの活用による災害初動における情報収集の課題について
*研川 英征栗栖 悠貴榎本 壮平
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抄録

1.はじめに

情報通信技術(以下,「ICT」と呼ぶ)の進歩に伴いSNSによる情報が災害直後の迅速な状況把握に活用されつつある.その中でSNSに投稿された画像は点情報であるが速報性が期待出来るだけでなく,平成30年7月豪雨における浸水推定段彩図によって面情報へ置換出来ることも示された(国土地理院 2018).

しかし,SNSの情報は不特定対象による情報であり,必ずしもこちらの意図を汲んでいないことも想定され,適切な情報収集と利活用を目指す上で問題となる可能性がある.

そこで,平成30年7月豪雨における倉敷市真備町,平成29年7月22日からの梅雨前線に伴う大雨における雄物川を対象として,SNS画像の時系列及び平面分布を調査した。また,倉敷市真備町においては現地調査をおこない,最大浸水による浸水痕の高さを計測した.

2.作業内容

ウェブ上からSNS画像を収集,浸水による水面位置と撮影場所を特定出来る画像を抽出し座標を付与した.

倉敷市真備町における現地計測は11月28日〜29日におこない,SNS画像上の水面位置の高さのほか,最高水位時点と推測される浸水痕の水位を計測して教師データとした.現地での浸水痕の計測にはTruPulse200を使用した.

3.結果

SNS画像は,倉敷市真備町では市街地に集中しており,小田川右岸は最大浸水深が4mを越えているにも関わらず分布していない.雄物川においても同様の傾向である.とくに秋田市の市街地近傍にSNS画像が分布している.時系列で見ると,災害発生直後は投稿が少ないものの,浸水開始から6時間を過ぎた頃から情報量が増えてくる.

倉敷市真備町においては,浸水が深夜・未明からはじまったことも,投稿時刻に影響していると考えられる.

倉敷市真備町における最大浸水深とSNS画像による浸水深についてはおおむね傾向は一致するが,SNS画像には低水位時の情報が抜けている.情報の偏りの要因として,投稿者のネガティビティ・バイアスがかかっていることも考えられる.

4.まとめ

収集したSNS画像の分布は,市街地に集中していた.後背湿地や旧河道に近いエリアや,低水位時,夜間の情報は不足していた.SNS画像は分布等に偏りが見られるものの,災害情報が不足する災害初動時においては,速報性のある補完情報としての役割が期待できる.

また,平野部の浸水には破堤後12時間以上を要する場合もあり,速報性が結果として,過大評価にも過小評価にもなる可能性が考えられる.一方で,スマホ等のICT機器には防水機能の実装が進んでおり,災害時における利用のハードルも下がってきていると考えられるが,あくまでも不特定からの情報のため,撮影場所・時間,構図等をこちらが選べない.

災害時においては,ICTの普及や利活用の動向を注視して,速報性と誤差要因を鑑みながら適切なデータ収集と活用を試みることが重要となる.

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