日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S206
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発表要旨
中山間地域における人的支援の変容
*伊藤 春陽
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抄録

1. 中越大震災における地域復興支援員の役割

(1) 地域復興支援員とは

2004年10月23日に発生した新潟県中越地震(新潟県では中越大震災と命名)は,中山間地域直下の地震であり,全国でも有数の豪雪地帯である新潟県中越地方(長岡市を含む新潟県の中南部の圏域)の中山間地域に激甚な被害をもたらした.

長岡市では,市の出捐により中間支援組織として設立した「山の暮らし再生機構」(以下,LIMO)において新潟県中越大震災復興基金(以下,基金)の「地域復興支援員設置支援」制度を活用した地域復興支援員(以下,支援員)を雇用し,2008年から被災地域に配置した.この制度は被災地域の人的支援を補助するものであった.基金による支援員制度は2017年度末で終了したが,長岡市では支援員の呼称を継続し,その人材の活用を行っている.

(2) 被災当初の支援員の役割—「守り」の機能

被災当初,物理的・精神的に弱まった地域においては被災者に寄り添った支援が求められた.行政では拾いきれない声を創造的な震災復興に必要となる行政サービスに反映させるため,長岡市(行政職員)・被災地域(被災住民)・中間支援組織(支援員)の三極構造を展開するプラットフォームでの重要な橋渡し役を担い,被災地域(被災住民)に寄り添ったのが支援員の特徴である.

(3) 後発災害への展開

長岡市では,復興過程において,阪神・淡路大震災から叫ばれているコミュニティ機能の維持・再生を重要視した.2016年の熊本地震の際には,中山間地域である熊本県西原村へのLIMOによる支援員の派遣を後押しした.行政職員ではなく「支援員による人的支援」が,中越大震災での知見を活かした被災地支援になると考えたものである.

2.近年の支援員の役割—「攻め」の機能

全国的な傾向と同様に,長岡市においても中山間地域を中心とした過疎高齢化が課題となっている.さらに,被災をきっかけとした人口が減少した地域も少なくなく,こうした課題に対して,地域おこし協力隊と類似した活動を持続可能な地域づくりを目的として支援員自らが担うようになった.

3.まとめ—「守り」と「攻め」の支援の両立

中越大震災から15年,長岡市においても支援員の配置を2020年度末で終了する.支援員は,集落を見守る集落支援員のような「守り」の部分と,地域の活性化を図る地域おこし協力隊のような「攻め」の部分との両方を兼ね備えた存在となった.

今後は,震災復興〜持続可能な地域づくりの過程の中で得られた知見を活かした人的支援策(守りと攻めの両立)を進めることが重要である.また,地域からは長年にわたって活動してきた支援員が地域人材として残ることが求められているといえよう.

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