主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2019年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2019/09/21 - 2019/09/23
1.研究背景・目的
近年、農業従事者の高齢化や農村部の過疎化により、多くの農村において農業体験やファームイン、直売所など、農村空間を利用したグリーンツーリズムに農村存続の意義を見出している事例が多く見られる。この現象は、地理学の分野においては、従来食料を生産する場として位置づけられた農村部が、生産機能以外にも余暇やアメニティ空間を提供するといった多様な機能を持つものとして位置づけられ、「農村空間の商品化」として捉えられた。
本研究では、北海道道東地方を対象として、遠隔地農村におけるグリーンツーリズムの展開の経緯、実態、要因を、主に農家の経営に基づいて明らかにする。
2.対象地域と研究方法
本研究の対象地域である道東地方は、一般的に十勝総合振興局、オホーツク総合振興局、釧路総合振興局、根室振興局の4地域のことを指す。道東地方では、十勝総合振興局を中心にグリーンツーリズム関連施設が展開している。本研究では、十勝地方を中心にグリーンツーリズム関連施設を経営する農家、またグリーンツーリズムを支えるアクターとして行政と、農家が中心となって設立されたNPO法人を対象に聞き取り調査を行った。
3.結果・考察
道東地方におけるグリーンツーリズムは、十勝管内鹿追町に1軒のファームインと農家レストランの複合型施設が開業したことに始まる。その後、1990年に鹿追町ファームイン協会が設立され、この組織は2000年に現在の「北海道ツーリズム協会」となり、農家のグリーンツーリズム教育機関としての役割を果たしてきた。遠隔地農村においてはファームインがグリーンツーリズムの核となると考えられるが、ファームイン開設には旅行業法などによる規制がネックとなってきた。しかし、2003年以降に規制緩和が進み、ファームインの設立数は拡大した。
聞き取り調査からわかったこととしては、グリーンツーリズム関連施設を経営する農家の多くは、農業の貿易自由化への危機感をきっかけにグリーンツーリズム関連施設の経営を始めており、欧米の先進事例を自ら学び実践している例が多く見られた。彼らがグリーンツーリズムを始めた当初は、農家が副業に手を出して本業共々失敗するのではないかと考えていた農家も一定数いたようだが、地域のために何ができるかを考えた結果、地域の主流に乗らない、自立した経営の一つとしてグリーンツーリズムを実践するに至っている。
道東地方におけるグリーンツーリズムの発展要因としては、農家の自発性とグリーンツーリズムを支える組織の存在が挙げられる。グリーンツーリズムを支える組織は、農家が中心であり農家の自発性に根ざしていることと、農家の教育機関として機能していることが特徴である。
遠隔地農村におけるグリーンツーリズムの今後の展望としては、農家の自発性に根ざした推進、農家を中心とした組織づくりと行政の協力、またその組織が旅行者の受け入れや広報を一括で行う窓口としての役割を果たすことが重要であると考えられる。
参考文献
田林 明(2013):『商品化する日本の農村空間』農林統計出版.
田林 明(2015):『地域振興としての農村空間の商品化』農林統計出版.