抄録
1.はじめに
1970年代末の改革・開放政策の実施に伴い,中国の農村地域は急激な社会的・経済的再編をもたらしている.その中で,工業化や都市化の進展によって,農村地域の再編プロセスは大きな地域的な差異がみられている.特に農外就業は農村地域の再編において大きな役割を果たしている.そのため,本発表は経済発展の進行している中国東部地域を研究対象として,農業主導型の農村地域における地域労働市場の特性および農家の農業経営にみられた分化の特性を解明することを目的とする.
2.対象地域の概観
本発表は中国の東南部に位置している福建省を対象としている.2000年代以降,福建省における都市化・工業化の進展は農村地域に大きな影響を与えた.沿岸地域は農村人口や耕地面積の減少をもたらす一方,より付加価値の高い漁業や商業的農業に移行した.内陸地域は経済発展が遅れているため,労働力の流出が顕著である.内陸地域の農業構造調整は一部の地域を中心に商業的農業への転換が進行している程度である.
3.調査農村地域の就業構造
調査農村地域における就業者の特性を把握するため,農村居住者と就業者の年齢構成を比較した.農村居住者は20歳代から50歳代に集中して,20歳代と40歳代は最大のコーホートである.就業者の場合も20歳から59歳に集中しているが,20歳代の就業者比率は他の年齢階級より低い.これは主にこの年齢階級が大学への進学や女性の主婦層が多いことによる.30歳代から50歳代はほとんど農業か農外就業に従事している.60歳以上は就業率が低い.
続いて,就業地を村内,鎮内,県内,省内,省外の5つに分けてその特性を検討した.村内に就業する者は圧倒的に多く,主に40歳代と50歳代から構成される.鎮内と県内の就業者数は村内のそれよりかなり少なく,年齢層は若年層から中年層まで広がる.省内の就業者は主に若年層から構成され,都市部での農外就業が中心である.
就業者の職種は自営業,農業,日雇農外雇用,日雇農業雇用,農外就業に分類できる.村内の就業は男女を問わず農業が中心であるが,一部の男性の自営業と女性の日雇農業雇用もみられる.鎮内と県内の就業者は村内就業者と異なり,その多くは農外就業している.鎮内の就業は製造業や女性の日雇農外雇用であるが,県内の就業者は製造業とサービス業への就業である.省内と省外の就業者はもっぱら農外就業であり,長期的に農村から離れる傾向がある.
4.農家の農業生産にみられた分化
上の分析から,省内外の都市部に就業している若年層は長期的に農業を離れていることが分かる.そのため,本発表は彼らを除いて,対象地域の農家を専業農家,第1種兼業農家,第2種兼業農家に分類した.上記の分類に基づいて,農家収入,農業の生産条件,農業生産性に差があるかどうかを検討した.農家収入は野菜収入,農業収入,その他の収入に細分化した.農業収入と野菜収入は当地域の農家にとって最も重要な収入源であり,農家間に顕著な差がみられた.この差は専業農家と第2種兼業農家,第1種兼業農家と第2種兼業農家にみられている.一方,農家収入については三者に有意な差が認められない.
農業の生産条件は請負農地,農産物の作付面積,野菜の作付面積に基づいて検討した.請負農地は三者に差がないが,農産物の作付面積と野菜作付面積は第1種兼業農家と第2種兼業農家,専業農家と第2種兼業農家間に有意な差がある.最後に,農業生産性をみると,農作物の生産性は専業農家と第2種兼業農家に有意な差が認められるが,野菜の生産性は三者に有意な差がない.
5.おわりに
以上から,若年層の長期出稼ぎ就業は依然として農村地域の主要な農外就業方式である.これによって,農村地域の世帯員就業における空間的な分離をもたらしている.本発表は彼らを除いて農家を分類し,農業収入,農家の生産条件,農業生産性の差異を検討した.その結果,対象地域の農家は請負農地の面積に有意な差がないが,農業収入,野菜収入,野菜と農作物の作付面積に差異がみられた.