日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 107
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発表要旨
酸性河川を例とした水質災害のコミュニケーションメソッドの試案
*横山 俊一
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抄録

1. はじめに

 日本は世界有数の火山大国であり温泉大国であるということはに広く認識され、様々なかたちで温泉のメリットを享受している。しかしその裏にある火山や温泉によるリスクに関してはどの程度認識があるのだろうか。特に可視化されやすい土砂災害等とは異なり、目に見えにくい水質災害のリスクは休廃止鉱山の排水問題等により今後さらに増加することが推測される。

2. 酸性河川について

 酸性河川は、温泉や休廃止鉱山から流入する低pH水により、農業用水や発電用水、内水面漁業等の水利用に影響を与えるとともに、突発的な火山活動の活発化や、休廃止鉱山の坑道崩落等により水質災害を引き起こす河川である。国内のいくつかの酸性河川において恒久的な対策事業が行われているが、実際は水利用に対応できる水質基準まで河川水の中和を行うのみで、湧出源の対策まで行うものは少ない。そのため対策後も中和処理施設において突発的な事故等が発生すれば、酸性水の流入による災害が発生することとなる。

 酸性河川研究は理学・工学の分野での酸性水発生源の湧出機構や成分特性、中和処理技術に関するもの、河川工作物の腐食対策、生物分野での生息動植物の研究が中心であり、欧米を中心とした諸外国でも同様の傾向である。これに対して人文社会科学分野では、対策についての歴史的展開が中心であり、現在の状況、特に流域住民の河川環境認識についての研究は行われていなかった。

3.これまでの取り組み

 発表者は東日本の代表的な酸性河川であり、恒久的な対策事業が行われた秋田県玉川で流域住民の河川認識について調査を行った。結果、恒久的な対策を実施したことにより流域住民には、上流から下流の地域差は多少みられるものの災害リスクは無くなったものと認識してしまう傾向が明らかになった。

 しかし中和処理施設は暫時的に過ぎず、環境問題の再発のリスクが常に伴う状況である。酸性河川化の主な原因である温泉のある上流部に居住している住民ですらこのような状況であることから、酸性水の発生源から遠く離れた住民は、居住地の上流において対策を実施していることすら認識していない可能性が高いことがうかがえる。しかし、上記のようなリスクの中で生活していることを日ごろから意識することは、水質以外の様々な災害に備える意味でも重要である。

4. 今後の課題

 そこで、視認困難な水質災害を含めた環境問題のデメリットや、災害にかかわる成因やメカニズム等を市民に伝える場合、どの程度の内容と量であれば受入れ可能であるか、その受容量について明らかにすることを目的に調査研究を行っている。これは研究者・市民双方にとって有益で効果的なサイエンスコミュニケーションをはかることにつながっていく。さらに水質災害の認識について定量的に明らかにすることは、今後、視認困難な環境問題に対応する際の指標とすることも検討できる可能性もある。

 現在、群馬県吾妻川と長野県内の酸性河川を事例に調査を行っている。当日はこれまでの調査で明らかになった課題と今後の進め方について報告を行う。

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