日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P116
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発表要旨
タイ・バンコクの都市化が降水に与える影響
*大津 佑介日下 博幸
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抄録

1.はじめに

 近年、都市部で発生した短時間降水による人的・経済的損失が報告されている。そのため、都市降水は都市計画や防災上の観点から注視すべき事柄であると考えられる。

 主に中緯度大都市を対象として観測や数値実験の両者から都市化が降水量を増加させることが示されている(例えば、Mote et al., 2007やKusaka et al., 2014; 2019)。一方、近年都市化の著しい東南アジアの大都市を対象とした都市と降水について、数値実験による調査はジャカルタを対象とした例(Argueso et al., 2015)以外ない。そこで、東南アジアの中で都市化の顕著なタイ・バンコクを対象に、数値実験によってバンコクの都市化が降水量に与える影響を定量的に明らかにする。

2.研究手法

 土地利用(LU)と人工排熱を変更した数値実験を行い、都市化が降水に及ぼす影響を定量的に評価する。土地利用と人工排熱は現在(2010s; CTRL)と過去(1910s; Case1910s)の2つを使用する。使用モデルは領域気象モデル(WRF)である。現在のLUはLandsat-8から作成し(図左)、過去の LUは当時の外邦図やその他資料を基に推定する。現在と過去の人工排熱は、タイ国内のエネルギー消費量と人口統計センサスに基づき推定し、各ケースそれぞれの2次元マップをWRFに組み込んだ。

本実験では不確実性を低減するため初期値・境界値や雲微物理スキームをそれぞれ変更するアンサンブル実験を行う。解析対象領域の格子間隔は2kmである。対象期間は地上観測に基づく日降水量グリッドデータAPHRODITE(Yatagai et al., 2012)を基に都市での降水量が周辺よりも明瞭に多い2009年5月とした。

3.結果

 CTRLの月積算降水量は観測値と比べて全体的に過大評価していたが、空間分布と日変化は観測とよく一致しており、WRFは対象とした気象場をよく再現できたと考えられる(図略)。

CTRLとCase1910sの結果から都市化の影響を検討する。対流性降水の明瞭な夕方(17LST)に注目すると、都市域では時間降水量の増加がみられ、周囲の郊外では降水量の減少がみられた(図右)。これは、バンコクの都市化が降水量を増加させたことを示唆している。さらに、CTRLの都市域では、Case1910sと比べて明瞭な気圧低下域と風速の減少(収束域)が見られ、降水量の増加がみられる領域とほぼ一致していた(図略)。なお、当日はメンバー数を増やしたアンサンブル実験の結果を用いて、降水に対するバンコクの都市化の影響を議論する予定である。

謝辞

本研究はJSPS科研費(基盤研究(B)JP18H00763)の支援により実施された。

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