日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 513
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発表要旨
クラスター分析を用いた日本の気候区分
*日下 博幸佐藤 亮吾
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抄録

これまで,日本を対象とした気候区分が数多く提案されてきた(例えば,中川 1899,福井 1933,関口 1959,鈴木 1962,前島 1967,井上・松本 2005,小泉・加藤 2012)。一般的に,気候を分類する際には,気候の成因を重視する立場(成因的気候区分)と気候要素の季節変化や植生分布を重視する立場(経験的気候区分)に大別される。経験的気候区分は,さらには,人の経験や見方に基づく主観的な方法と多変量解析などに基づく客観的な方法がある。近年は,クラスター分析を用いた方法(井上・松本 2005)や,主成分分析とクラスター分析を併用した方法(小泉・加藤 2012)が主流となりつつある。このような多変量解析を用いた客観手法は,どの指標を用いるかによって,当然ながら結果は大きく異なる。例えば,井上・松本(2005)は降水量のみ,小泉・加藤(2012)は降水量・気温・日照時間の3要素を用いて気候区分を行っており,その結果,異なる気候区分図となっている。

本研究では,これまで用いられてこなかった気象要素も利用しながら,クラスター分析に基づく新しい日本の気候区分を作成する。さらには,気候区分の指標依存性や区分数依存性についても調査する。

本研究では,クラスター分析を用いた。指標は,日平均気温,日最高気温,日最低気温,気温の日較差のそれぞれの月平均値,降水量,日照時間のそれぞれの月積算値から選択された複数要素の組み合わせとした。ただし,多重共線性を考慮して選択したため,全ての要素を同時に使うことはなかった。気象要素には,1981-2010年の30年間のアメダスデータの平均値(平年値)を用いた。

本研究で作成した気候区分のうち,著者らの実感と近いものを紹介する。図1は,降水量・日最高気温・日最低気温・日照時間を用いて6区分した場合の結果である。一つ目の特徴は,北海道と本州が区別され,ケッペンの気候区分と整合したことである。これは,降水量と気温を併用したためである。二つ目の特徴は,中高の教育書籍で紹介される瀬戸内気候や内陸気候が出現していないことである。三つ目の特徴として,東海地方から九州の太平洋側にかけて気候区が出現したことがあげられる。これは,夏季の多雨が反映されたため出現したと推察される。本研究では,この気候区を東南海・南九州気候と呼ぶことにする。

次に,別の気象要素を用いた場合の結果と比較した。日最高・最低気温の代わりに日平均気温を用いた場合は,北海道と北東北の太平洋側が同じ気候区として認識された。また,東北南部・関東・中部内陸が同じ気候区と認識された(図省略)。さらに,日照時間を抜いた場合は,北東北の太平洋側と日本海側がまとまる一方で,南東北と関東が別の気候区と認識された。(図省略)。これは,日照時間という指標を減らすことにより,気温の影響がより強まったことを示唆している。実際,この特徴は,気温のみを指標として用いた場合にも現れている。降水のみを指標に用いた場合は,夏季に降水が多い地域,冬季に多い地域,年間を通じて少ない地域に大きく分かれた。そのため,北海道と瀬戸内海が同じ,本州日本海側と八重山諸島が同じ区分になるなど,雨温図からの実感とは異なる結果となった。

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