日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P157
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発表要旨
湯沢市稲川地区のウルシ林の現状について
*成田 憲二石沢 真貴林 武司
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キーワード: 川連漆器, ウルシ, 個体群, 植林, GIS
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抄録

1.はじめに

江戸時代に漆器産業が確立して以来、日本各地に漆器産地が成立し、それに伴い原料となる漆生産のためのウルシ植林が盛んに行われてきた。昭和に入り社会環境の変化に伴う漆器生産の衰退による漆需要の減少と中国産原料におされ漆生産量も急激に減少したが、近年、文化財修復に伴い安定的な国産漆の供給体制を確立する動きが高まってきたことに加え、工芸品としての価値が見直され全国各地での漆器生産が復興しつつあるのに伴い、ウルシ植林の機運も高まっている。

秋田県南東部に位置する湯沢市稲川地区では、江戸期より川連漆器が生産されていたが、需要の低迷や生産者の減少などによりその生産は低迷していた。近年、国による伝統工芸品の再評価を受け,秋田県,湯沢市の支援事業等により人材育成や商品開発,海外販路の開拓などに取り組んでいる。その中で、漆器生産者自身により漆の生産を行う活動が始まり、稲川地区2ヶ所においてウルシの植林も試験的に行われている。ウルシ植林には、その生態学的特性の理解と周囲の土地利用形態を考慮した適正な生産・管理が必要である。伝統工芸品の生産が長年続いた地域は、利用植物に応じた独特の資源利用空間による景観特徴を持つため、既存の生産地に見られる景観的特徴を客観的に把握しデータ化した上で植林場所や方法を検討する必要がある。

本研究では,秋田県稲川地区におけるウルシ生産地としての諸特性を把握した上で、今後の漆生産の可能性を評価し、その基礎資料作成することを目的として,ウルシ原木の現状把握を行った。

2.研究方法

秋田県湯沢市・稲川地区内のうち多数のウルシ個体が認められる大沢地区において、2018年〜2020年にかけて毎木調査を行なった。調査地全域を踏査し発見した全てのウルシ木について、位置、個体サイズ(直径、樹高)を測定し、個体の状況について観察を行なった。

これらの実測データに加えて、国土地理院の1940年代及び70年代の空中写真画像データ、数値標高データ, GoogleMaps等の空間地理情報を取得し、GIS(QGIS 3.4)によってウルシ個体群の空間分布と地形や土地利用の変遷などとの関係について分析した。

3.結果・考察

調査地である稲川・大沢地区を踏査した結果、175個体(成木126個体、稚樹49個体)のウルシ個体を確認した。ウルシ個体はそのほとんどが農道または畑の境界に植えられたものであり、面的に植林されたものは存在しなかった。個体群は大きく成長した老齢と思われる個体で構成され、また腐朽が進んだりツル植物に覆われた個体が目立った。新規加入個体は一部の大径木からの出根による無性繁殖による可能性が高い事が推察された。

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