日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P117
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発表要旨
宮城県名取川堤外地における農地利用の実態と浸水リスク
*横山 貴史原 将也宇津川 喬子伊藤 徹哉島津 弘
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抄録

1.はじめに

 2005年の「河川敷地占用許可準則」改正以降、現代の河川堤外地という空間をめぐっては、まちづくりや環境教育といった多様な利用が推奨された一方で、居住や農業については法的に厳しく制限されている。とりわけ、河川堤外地の利用の代表的事例である農地利用については、河川堤外地が官地・民地が入り混じる複雑な所有形態であることや、洪水をはじめとした災害リスクを常に抱えていることから、その利用実態の把握は難しい。現代における河川堤外地空間のあり方の評価のためには、農業などの人間活動と微地形・災害履歴などを踏まえた多角的な視点から総合的・通時的・動態的に把握することが求められよう。

宮城県名取川の堤外地では、官地と民地が混在しており、多くの農地が存在しながら、河川の氾濫が頻発する。本報告では、名取川を対象として、堤外地における農業的土地利用、浸水被害や微地形との関係について基礎的報告を行う。

2.研究対象地域:名取川

名取川は宮城・山形境の付近の神室岳(標高1,353 m)端を発し、広瀬川等の支流と合流しながら、宮城県名取市閖上地区で太平洋に注ぐ一級河川である(流路延長55 km、流域面積939 km2)。名取川では河口から約10 km上流まで、堤外地の高水敷における農地利用が確認できる。これらの農地ではダイコン、ニンジン、タマネギ、マガリネギ、ユキナやハクサイなどの葉菜類が栽培されている。

これまで名取川堤外地の農地では、大雨による浸水のほか、2011年東北地方太平洋沖地震による津波の浸水被害が確認されている。本研究の調査期間中の2019年10月12〜13日にも、台風19号による農地への浸水被害が発生した。このように、名取川は災害履歴と微地形との関係、および河川堤外地における農業的土地利用といった人的営為への影響を見る上で格好の研究対象地域であるといえよう。

3.名取川の自然災害と農業的土地利用

 名取川をめぐっては、これまでも津波や台風による河川敷の浸水被害があった。2011年の津波は高水敷においても広瀬川との合流地点付近まで遡上し、農地が浸水被害および塩害を受けた。また、2011年9月、2012年5月、6月、2015年9月にも台風や大雨による増水で洪水が発生し、農地が浸水した。報告者の島津は2011年と2012年に浸水被害と農地利用との関係について現地調査を行っているが、津波の浸水被害が大きかった場所で洪水の影響が大きかったことや、高水敷の流路跡など地形条件の悪かったところで耕作放棄が発生していたことなど、自然災害と人的営為の即応的な相互関係を指摘した。

2019年10月の台風19号では、当地で耕作する農家が「2011年津波より(浸水深が)上」と被害状況を話すように、堤外地で甚大な浸水被害が発生した。農家への聞き取り調査によると、太白区四郎丸付近では越水間際まで増水し,その結果、農作物のほとんどが出荷できない状態となったとのことであった。

 現地調査は、2019年10月と12月に行った。河川堤外地は広大であるため、土地利用や洪水の挙動の把握するため、UAVを用いた空撮を行った。また、農家への聞き取り調査により浸水の影響とその後の対応の把握、ならびに高水敷における氾濫堆積物の観察および採取も併せて行った。発表では、最新の調査結果をふまえて、名取川堤外地における農業的土地利用と浸水被害の実態について報告したい。

【付記】

本研究には、科学研究費補助金(課題番号18K01128)を使用した。

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