主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2020年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2020/03/27 - 2020/03/29
1.はじめに
アフリカで山腹氷河が現存する山域は,赤道付近に位置する東アフリカのキリマンジャロ,ケニア山,ルウェンゾリ山だけである.これら現存する山腹氷河の面積は小さく,近年の温暖化の影響で数十年後に消滅すると予想されている.ケニア山の氷河数は,1929年に17あったが,2004年の氷河台帳で10となり(Hastenrath, 2005),最新の2016年の氷河台帳では9である(Prinz et al., 2018).これらはすべて小型氷河であり,雪線高度付近に存在している.
本研究では,2017年,2018年,2019年に取得したセスナ空撮画像から作成したオルソ画像と地形表層モデル(DSM: Digital Surface Model)を用いて,ケニア山の現在の氷河数と氷河の質量収支を明らかにした.
2.研究地域
本研究地域は,ケニア中央部に位置するケニア山(5199m)である.ケニア山はアフリカ最高峰のキリマンジャロに次ぐ第二峰である.ケニア山は,約300万年前に形成された火山で,現在は削剥され,過去の氷河作用を示す放射状のU字谷が形成されている.ケニア山のTyndall氷河は,1919〜1994年の75年間で300m後退している(水野,1995).
3.研究方法
2017年9月21日,2018年8月19日,2019年8月25〜26日にセスナ機から山腹氷河の空撮を実施した.Nanyuki Air StripにあるTropic Air社のセスナ機(Cessna 208B Grand Caravan)からSony α7iiとα7Riiの一眼レフカメラを用いて,1秒間隔で氷河と周辺地形を含めた連続鉛直画像を取得した.飛行は早朝7時に離陸して,1時間の撮影をおこなった.セスナ機からの空撮画像と2次元の形状から3次元形状を特定するSfMソフトのPix4D Promapperを用いて,氷河周辺のオルソ画像とDSMを作成した.これらデータの作成には,2016年2月17日に取得されたPleiades衛星のオルソ画像とDSMから取得した地上基準点(GCP)を用いた.GCPは,氷河を囲むように長期間で不動の場所を選定した.
4.ケニア山の空撮DSMの精度検証
2017年9月にTyndall氷河前面でTrimble GeoExplorer6000で取得したGNSSデータから2018年のセスナ空撮DSMの鉛直方向の差分は,平均2.98+0.85mであった.氷河以外の場所のテストサイトでは2016年のPleiades DSMから2018年のセスナ空撮DSMの差分は,平均0.37+0.69mであった.セスナ空撮DSMはPleiades DSMからGCPを取得したため,そのまま比較している.
5.ケニア山の氷河数と質量収支
2016年2月17日に取得されたPleiades DSM(解像度0.5 m)と,2018年のセスナ空撮DSM(解像度0.2m)を比較した結果,明瞭な地表変化を示す雪氷体を確認した.2016年の氷河台帳ではNorthey氷河が含まれるが(Prinz et al., 2018),この氷河がある場所で明瞭な地表面変化を確認できなかったため,現在の氷河数を8とした.
2016年2月から2018年8月までの30ヵ月間のCesar氷河とForel氷河を除く六つの雪氷体の質量収支は-3.6 m w.e.であり,この期間ですべての氷河の質量収支は負であった.現在の氷河数は8であるが,最大面積のルイス氷河(0.0733 km2)の氷厚は,Prinz et al.(2012)のデータから推定するとかなり薄く,すべての氷河が消滅に向かっているといえる.表面低下を示した雪氷体のうち,Darwin氷河(0.0039 km2),Heim氷河(0.0025 km2),Diamond氷河 (0.0001 km2)の面積はかなり小さく,これら氷河が顕著な流動を示すかは不明である.Tyndall氷河前面に設置したインターバルカメラ画像から,雨期の積雪はわずかしかなく,これら氷河は多年性雪渓に遷移するのでなく,顕著に流動しない氷体のまま縮小していくことが予想される.