日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P103
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発表要旨
技術イノベーションシステムの地理的特徴
―AI関連技術の事例―
*鎌倉 夏来
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抄録

知識や技術の創造と拡散がいかなる地理的特徴を有するのかを明らかにすることは,地理的に不均等な経済成長を理解するために重要である.これまで,イノベーションを取り巻く様々なアクターが形成する環境に注目した研究は,ナショナルイノベーションシステム(NIS)や地域イノベーションシステム(RIS)といった,地理的な領域として区切られたなかでの制度を分析するという枠組みや,個別の産業特有のシステム環境に着目したセクターイノベーションシステム(SIS)といった枠組みの中で論じられてきた.しかしながら前者においては,地理的スケールの境界や階層を先験的に設定することで,本来重要な役割を果たしているアクターを軽視する可能性がある.また,後者については,既存の産業枠組みにとらわれることによって,産業の枠を超えたイノベーションの創出を把握することができないという問題点があった.本稿では,知識や技術に着目した「技術イノベーションシステム(TIS)」という分析枠組みを導入し,より知識や技術そのものの特徴に即したイノベーションシステムの地理的特徴を解明するための試論を展開したい.分析対象は,近年国内外で多様な産業への応用が期待されているAI(人工知能)関連技術とした.まず,1980年から2019年について,AIに関連する論文を抽出した.具体的には,Web of Science Core Collectionの中でComputer Science, Artificial Intelligenceに分類された論文935,548本(2020年1月8日時点)を取得し,その中で高頻度に引用されている2,350本の論文を分析対象とした.高被引用文献は,2009年から2019年に発表されたものに限定されていたため,分析対象はこの期間となる.特許出願等の状況から2014年以降は「第三次AIブーム」とされていることから,①2009年〜2013年,②2014年〜2019年の二つの時期に分けて分析を行った.共著者数を考慮せずに論文数で重み付けし,①と②の期間を比較すると,中国の研究機関・企業の割合が二倍近くになっていることがわかった.しかしながら,これらの論文に占める国際共著論文の割合は,最も論文数の多かった中国科学院で60%以上となっているなど,国単位での分析には適していないことが確認された.そこで,著者の所属する研究機関・企業をノードとした社会ネットワーク分析を行なったところ,国単位の内部ネットワークが必ずしも強固ではないことが示唆された.

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