日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 516
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発表要旨
関東平野における近年の暖候期の月別気温トレンド
*渡来 靖水野 弘毅
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抄録

1. はじめに

 日本において夏季の高温が年々顕著となっていることは、様々な研究で指摘されている。関東平野においても、内陸部での著しい高温日が近年大幅に増加し、その要因として総観場や都市化の影響が指摘されている(藤部1998)。しかし、温暖化などによる昇温傾向は極値の増加だけでなく、高温期間の増加や季節変化にも影響すると思われる。そこで本研究では、関東地方平野部における近年の暖候期の気温トレンドについて月別に調査し、その地域性や季節性について明らかにすることを目的とする。

2. データおよび解析手法

 研究対象期間は1989年〜2018年の30年間の暖候期(5月〜10月)とした。使用したデータは気象庁地上気象観測所・アメダス観測所における地上気温観測値である。本稿では、月平均気温および真夏日日数の統計値を用いた。対象領域は関東地方の平野部とし、宇都宮(標高119.4m)より標高が低くかつ島嶼部を除き、調査期間中に欠測のな計43地点について調査した。

 経年変化率については、月ごとに対象期間30年分の値に最小二乗法による線形回帰を適用し、その回帰係数として求めた。また、Mann-Kendall検定により有意検定を行った。

3. 結果および考察

 月平均気温の経年変化率をみると、どの月もおおよそ全ての調査地点において正の変化率を示しており、全地点で単純平均した月別の経年変化率は、5月が0.673℃/10年、6月が0.411℃/10年、7月が0.712℃/10年、8月が0.404℃/10年、9月が0.185℃/10年、10月が0.378℃/10年となり、関東平野においては5月と7月の昇温傾向が特に大きいことが示された。7月の顕著な昇温傾向は、日最高気温についての西森ほか(2009)の調査でも指摘されている。5月の地点ごとの分布をみると、昇温傾向は特に関東平野北部内陸域で顕著であり、群馬や栃木の平野部では0.8〜1.0℃/10年に達している。同様の傾向は7月にも見られるが、内陸部と沿岸部の経年変化率のコントラストは7月より5月のほうがやや大きい。

 真夏日日数については、7月の経年変化率が最も大きく、全地点の平均で2.771日/10年を示した。月平均気温の特徴と同様、内陸部で大きくなる傾向も見られるが、鉾田、茂原、小田原など沿岸部でも3.4日/10年を超えるような大きな経年変化率を示す地点もあり、月平均気温に比べて局地的な特徴が見られる。

 今回示された5がつにおける顕著な昇温傾向は、近年の温暖化傾向に伴って季節進行の変化が生じていることを示唆する。今回調査した地点には、佐野や船橋のようにどの月でも周辺地点に比べてやや高い傾向を示す地点もあり、その要因について今後精査する必要がある。

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