日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P204
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発表要旨
小型UAVによるタイ南西部パカラン岬周辺のマイクロアトールおよび津波石の空間分布把握
*壇 綾女小岩 直人伊藤 晶文サッパシー アナワット
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抄録

はじめに

 マイクロアトールは,浅海域に分布する小型の環礁を連想させるサンゴの群集のことである.低潮位面より上に成長できないというマイクロアトールの性質は,形成時の相対的海水準を復元するための優れた指標のひとつであることを示す.マイクロアトールを扱った従来の研究では,複数の個体を対象とした測量,年代測定に相対的海水準の復元は行われているものの,群集として広がるマイクロアトールの分布を検討した研究は少ないと思われる.今回,2004年インド洋大津波によりマイクロアトールが破壊され,多数の津波石がもたらされたタイ南西部パカラン岬周辺において,小型UAV(小型無人航空機)を用いて撮影をおこない,その画像を処理・解析することで地形モデルを作成した.本発表ではマイクロアトールや津波石の空間分布を明らかにするとともに,年代測定を実施し,マイクロアトールの形成時期における海水準や津波時の津波石の挙動に関して検討した内容を発表する.

調査地点および調査方法

 パカラン岬は,タイ南西部パンガー県のカオラックの市街から北に約12km,アンダマン海に面する岬である.北東に向かってサンゴ礫や砂による砂州・砂嘴が形成されている.撮影地点は,パカラン岬西部の南北約1.5km,東西約0.6kmである.本調査において,小型UAVを用いた垂直写真の撮影とともに,地上基準点(GCP)を設置しその地点を,高精度GPS測量機器を用いてGPS測量を行った.撮影した画像はAgisoft社のMetashapeで処理し,点群データを作成した.得られた数値表層モデル(DSM)データから地理情報システム(ArcGIS)でマイクロアトールや津波石の分布や長径の分析を行うとともに,不規則三角形網(TIN)を作成した.さらに現地調査においてマイクロアトールからサンプルを採取し,(株)加速器分析研究所においてAMS年代測定をおこなった.

結果

 調査地域のマイクロアトールは,礁原の外側に①長径が大きく海底との比高が大きいものが分布②内陸側に長径が小さく海底との比高が小さいものが分布③周辺の土砂にほぼ埋没しているものが分布している.年代測定の結果,①の礁原の縁辺部のマイクロアトールは約5000calBP(IAAA-190636)の形成,②の長径の小さい内陸側のものは約820calBP (IAAA-1906635)の年代値が得られた.また,津波石が多く分布する部分の礁原の縁辺には破壊されたマイクロアトールが数多く分布している.  

 礁原には,サンゴ礫が多く堆積した高まりがみられるが,この周辺には津波石がとくに多く,形態もマイクロアトールを上下に反転させたような円錐形のものが多く分布している.津波石の年代測定の結果,約5000calBP(IAAA-182429)が得られている.

 以上の分析結果から,マイクロアトールの分布には長径が大きく比高が大きいものは礁原の縁辺,長径が小さく比高が小さいものは礁原の内側に位置するという傾向があり,それらは約5000年前と約820年頃の2つの時期に形成されたということがいえる.さらに,約5000年前は現在よりおよそ1.3m,820年頃は0.7m程度に相対的海水準が高かったと判断される.

 本研究の実施には,科学研究費補助金(基盤(A):代表 今村文彦「巨大津波後の長期的地形変化を考慮した沿岸防災機能強化」を使用した.

参考文献

Kazuhisa G. et al(2007)Distribution, origin and transport process of boulders deposited by the 2004 Indian Ocean tsunami at Pakarang Cape, Thailand.Sedimentary Geology,202,821–837.

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© 2020 公益社団法人 日本地理学会
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