日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P128
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発表要旨
「鴨川古写真GISデータベース」の構築と河川環境の変遷分析
ー四条大橋を中心にー
*飯塚 隆藤谷端 郷大邑 潤三佐藤 弘隆島本 多敬
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抄録

Ⅰ 研究背景および研究目的

 京都・鴨川の河川環境は,明治中期の鴨川運河開削や明治末期の同運河の拡張,三大事業に伴う橋脚工事,京阪電気鉄道の開通,昭和10年大水害後の大規模な河川改修などを経て,江戸時代の様相から大きく変貌した.こうした近世・近代における鴨川の河川環境の変遷に関する研究は,水文学/歴史地理学の吉越(2004)や文献史学の白木(2004・2015),土木史の林(2015)など様々な分野で取り組まれてきた.これらの研究では,工事関係文書・図面や地図,古写真などから検討されているものの,河川の状態や護岸,構造物などの地物の変化については不十分であり,複数年次にわたる古写真を用いることで,精度の高い河川環境の変遷分析ができるものと考える.

 本発表では,鴨川のなかでも古写真が多く残存する四条大橋周辺を主たる対象に,鴨川の河川環境の変遷を読み解くために構築したデータ基盤「鴨川古写真GISデータベース」の分析から明らかになった河川環境の変遷について紹介する.

Ⅱ 研究資料および研究方法

 「鴨川古写真GISデータベース」の構築にあたり,まず,立命館大学アート・リサーチセンターの古写真デジタル・アーカイブプロジェクトによって作成された古写真データベースの中から,鴨川に関わる写真を抽出した.これらの写真の撮影地点を同定してGISデータ化した.次に,京都府京都学・歴彩館が「京の記憶のアーカイブ」において公開している写真についても同様に,鴨川の写るものを抽出した.また,京都市歴史資料館蔵の『京都市臨時事業部写真帖』と,立命館大学歴史都市防災研究所蔵の歴史災害関係資料(『水害写真:昭和十年六月二十九日』,『水禍と京都』,『暴風水害写真』など)をデジタル撮影し,古写真データベースに取り込んだ.そして,収集した古写真データベースの中から地点(橋)ごとに河川景観を把握できる写真を選定し,時系列に並べ,古地図や空中写真なども使いながら,撮影時期や季節,河川の状態,橋梁(デザイン等),護岸,護岸の高さ,樹木,構造物の有無,人物などの要素を読み解いた.

Ⅲ 四条大橋周辺における河川環境の変遷

 四条大橋周辺は,鴨川運河建設(明治27(1895)年)以前では,河床に土砂が多く,それらの上で納涼床が営まれるなど近世的な河川利用がみられる.東岸(左岸)でも岸から高床式の床が張り出すなど河原との距離が近かったが,鴨川運河の建設後は,河原へのアクセス性が低下して鴨川と隔絶された感がある.また,大正2(1913)年に架設された四条大橋は当初,橋から運河堤防に設置された階段から河原に降りることができ,子どもが遊んでいる様子もみられたが,大正4(1915)年に運河堤防の上に京阪電気鉄道が開通すると,運河堤防上の階段が取り払われ,東岸から鴨川の河原に降りる手段がなくなる.

 一方,西岸(右岸)では,河岸の環境が激変しつつも,近世的な中小規模店舗による高床式納涼床も根強く残り,さらに近代建築による大規模化・常設化された納涼床も現れた.

参考文献

白木正俊2004.近代における鴨川の景観についての一考察—四条大橋と車道橋を中心に—.新しい歴史学のために257:1-17.

白木正俊2015.日本近代都市における河川改修の史的考察—京都市の鴨川水系を事例に—.二十世紀研究16:91-122.

林倫子2015.近代の都市河川—「山紫水明」の風致と鴨川の整備—.田路貴浩・斎藤潮・山口敬太編『日本風景史—ヴィジョンをめぐる技法—』279-309.昭和堂.

吉越昭久2004.『歴史時代の環境復原に関する古水文学的研究—京都・鴨川の河川景観の変遷を中心に—』 2002年度・2003年度立命館大学学術研究助成報告書

【付記】本研究は,立命館大学アート・リサーチセンター日本文化資源デジタル・アーカイブ研究拠点の2018年度・2019年度共同研究助成を受けたものである.

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