日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P105
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発表要旨
北海道岩宇地域における地域商社事業を介したナマコの生産・販売体制の構築
*崎田 誠志郎松井 歩
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抄録

1.背景

 近年,中国における乾燥ナマコ需要の増大を背景としたナマコ価格の高騰は,産地である沿岸漁業地域にバブル的活況をもたらしている.既存漁業の低迷に悩まされてきた北海道西部地域では,この経済効果を一過性のものとせず,漁業と地域社会の持続的発展につなげるべく,各地でさまざまな試みがなされている.その一事例として,本発表では,ナマコ資源の持続的利用と地域振興を目指した北海道岩宇地域1)における取り組みについて報告する.手法は各関係主体への聞取り調査および資料収集を中心とし,2019年8月・11月に現地調査をおこなった.

2.地域商社事業を介したナマコの生産・販売体制

 当該地域では,2016年度から5カ年計画で採択された地方創生加速化交付金および地方創生推進交付金を原資とするナマコの生産・販売事業2)が展開されている.本事業は町村連携による地域商社事業を核としており,域内の3町村(神恵内村,泊村,岩内町)と2漁協(古宇郡漁協・岩内漁協)から構成される「積丹半島地域活性化協議会」が中心となって進められてきた.地方創生への採択を受けて,2017年に3町村の共同出資により地域商社(株式会社キットブルー)が設立され,漁協が生産・増養殖を,地域商社が販売を担い,町村が財政支援をおこなう体制が構築された.

 協議会にはオブザーバーとして北海道行政,金融機関,およびキットブルーが参加するほか,ナマコの製品加工は地域内外の加工業者に,資源調査は民間企業に委託されており,幅広い主体を巻き込んだ事業展開がなされている.また,原料となるナマコは地元の仲買業者から仕入れることで,資源を独占することなく,地域の既存ナマコ産業と共存していくことも図られている.

3.考察

 本事例は,ナマコ価格の高騰を受けて各地で生じているさまざまな動きの中でも,特に地域の行政主体が補助事業を活用して主導的に対応を講じた例として位置づけられる.事業計画が立案された当初の目的は,ナマコ漁獲量が徐々に減少していく中で(図1),行政が資源の増養殖事業を支援するための資本を確保することにあったとされる.そのうえで,共通の課題を抱える地域の町村が地方創生の事業枠のもとで連携し,地域商社を核とする現在の事業体制が構想された.構想から実現までの過程では,コモンズ研究などで資源管理の成功要件として指摘される強いリーダーシップが原動力として存在していたことが示唆された.

 一方で,外需の動向に大きく左右されるナマコ事業は長期的な展望が描きにくく,増養殖事業の効果や,販売事業の安定的な収益化,地域への利益還元方法などには未だ不確定な部分もある.また,増養殖事業は町村ごとに,ナマコ漁の操業管理や荷捌き・出荷は本事業と関係なく地区(旧漁協)ごとにおこなわれている.そのため,販売事業と比べ,資源利用の面では依然として地区間での差異が存在することもうかがわれた.

1) 岩宇地域とは,北海道岩内郡(岩内町・共和町)および古宇郡(神恵内村・泊村)の総称である.

2) ナマコのほかにウニの生産・販売も事業対象となっているが,ナマコに比べて小規模であるため本発表では割愛する.

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