日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 707
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発表要旨
UAVマルチ/ハイパースペクトルリモートセンシングを用いた災害調査の可能性
*若狭 幸
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抄録

無人航空機(Unmanned aerial vehicle: UAV)を用いた地理学、地形学的研究は、昨今、数多く実施されている。UAVを用いて取得された画像は、衛星画像に比べると高解像度であり、任意の時に取得できるため、災害時の状況把握や早急な原因究明のために有効な手法であるとして活用されている。活用されている手法の多くは、動画取得による現状把握、可視カメラを用いた高精度地形図の作成などであり、いずれも可視画像を用いている。しかし、UAVを利用したリモートセンシング研究以外の衛星リモートセンシング研究やその他の航空測量研究分野などでは、可視画像のみならず、マルチスペクトル、ハイパースペクトルなど多波長画像が用いられたり、赤外線カメラやレーザーを用いた測定、測量など、種々のセンサーを搭載した研究が実施されている。そこで、本研究ではマルチスペクトルおよびハイパースペクトル画像を用いたUAVマルチ/ハイパースペクトルリモートセンシングを用いた災害調査の可能性について検討し、その結果を報告する。

マルチ/ハイパースペクトルカメラは大型でさらに高価あることが多く、これまでUAVに搭載され、災害調査用に利用されることはなかった。しかし、超小型衛星用の液晶波長可変型フィルタ(Liquid Crystal Tunable Filter: LCTF)搭載型マルチ〜ハイパースペクトルカメラが開発され、それをUAV用に適用させたカメラが開発されたことにより、その可能性が高まった(Kurihara et al., 2018)。マルチ/ハイパースペクトル画像は、地表面物質のスペクトル情報が入っており、地表面に存在するものの識別を多種化することができる。例えば、単なる裸地だけでなく、どのような土壌が存在するのか、そこに含まれる粘土鉱物の種類などを識別することができる。

斜面崩壊時、その崩壊面や崩壊発生源となった原因である地質、特に粘土層の存在やその範囲等を推定する必要がある。しかし、崩壊面は危険であったり、広範囲であったりするため、すべての地域の調査には時間を要する。一方で、前述したようなマルチ/ハイパースペクトル画像を取得できるカメラを用いることにより、UAVリモートセンシングでこれらの問題が解決できる可能性がある。広範囲に粘土鉱物が含まれる層の位置や、その量の推定などが、リモートで調査できるため、これまで困難であった問題に着手できることが期待される。

そのために、災害調査に適したカメラの開発と、実際に災害が発生した際に速やかに撮影ができるような撮影システムを整えておくことが必要である。そこで本研究では、第一に、2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震で発生した土砂災害地の土壌試料のスペクトル特性を分析し、土砂災害調査のために必要な反射スペクトルの波長域を推定した。次に、カメラの開発後に速やかに調査撮影ができるように、撮影システムを構築し、試験飛行を実施した。

北海道胆振東部地震により発生した斜面崩壊地から採取した土壌試料の反射スペクトルには、1400 nm、1900 nm周辺に大きな吸収帯が存在した。このスペクトル特性は、モンモリロナイトの特性に類似しており、土壌中にモンモリロナイトが含まれていることが示唆された。崩壊面にはモンモリロナイトのような膨潤性の高い粘土鉱物が含まれていることが多いため調和的である。

一方で、試験飛行はLCTFが搭載されたカメラを用いて実施された。試験飛行は概ね成功し、実際の土砂災害地の撮影にあたって考慮すべき注意点がいくつか抽出された。規格化するために置いた標準板が見える高さで撮影をする必要があることと、標準板を置いた場所でなければ撮影ができないということである。また、撮影はバンドごとに実施するため、位置補正が難しいことなどである。

以上のようなことにより、本研究では、UAVを利用したマルチ/ハイパースペクトルリモートセンシングが災害調査に利用可能かどうかを検討した。その結果、1400 nm、1900 nmの波長域を含めた粘土鉱物を識別できるカメラを開発することにより、UAVを用いて広範囲に粘土の分布を調査することが可能となり、本手法が災害調査研究に活用できることが示された。

引用文献:Kurihara, J., Y. Takahashi, Y. Sakamoto, T. Kuwahara, K. Yoshida, HPT: A High Spatial Resolution Multispectral Sensor for Microsatellite Remote Sensing, Sensors, 2018, 18, 619.

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