日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P170
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発表要旨
東京とその周辺域における夏季の局地的な強雨発現頻度日変化の地域性
*岡 暁子高橋 日出男鈴木 博人
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抄録

はじめに

 東京では夏季の午後から夜間にかけて,大気の不安定性に伴って発生する局地的な雷雨により,しばしば内水氾濫などによる被害が都市部にもたらされる.東京周辺での強雨発現の時間変化について先行研究では降水量や降水頻度が東京都心から山の手で正午から夕方にかけて多いこと(藤部 1998)や,最近100年で暖候期の午後に降水量が30%増加している(Fujibe et al. 2009)こと,東京都心では降水の上位階級の発現が遅れること(澤田 2017)などが報告されている.関東周辺の降水の日変化の地域性について齋藤・木村(1998)や澤田(2000)によれば山岳域で午後に降水頻度が高く,平野部では頻度の高まりが遅れる一方で,沿岸部や海上で午前中に降水頻度が高まることが指摘されている.しかし先行研究ではアメダスを用いた事例が多く,降水の局地性と広域性を考慮した上で,稠密な雨量計資料を使用した強雨頻度の日変化を系統的に調査した事例は少ない(高橋ほか 2016).岡ほか(2019)では東京都と埼玉県を対象に稠密な雨量計資料を用いて,15年間の夏季における強雨発現特性について詳細な分析を行い局地的強雨が都区部西部や北部で多くなることを明らかにし,東京都内を中心に強雨発現特性に詳細な地域性が現れることを提示した.そこで本研究ではその続報として,局地的強雨日に着目し,強雨発現頻度の日変化の地域性を明らかすることを目的とする.

解析資料

 解析対象領域は岡ほか(2019)と同様に北緯35.5-36.25度,東経138.875-140度の範囲内でAMeDAS・気象官署,国土交通省,JR東日本,東京都・埼玉県などの自治体による全290地点の1時間降水量を使用した.対象期間は1994年から2010年のうち,埼玉県のデータが得られなかった1997年と2006年を除く15年間の夏季(6月から9月)とした.観測データについては品質管理を行い,欠測率が15%以下の地点を使用した.

解析手法

 本研究では対象領域内の1地点以上で1時間降水量が20 mmを超える強雨日のうち,岡ほか(2019)で定義した局地的強雨日(358日)を対象とした.各観測地点における時刻ごとの局地的強雨頻度を集計し,それと全地点平均した時刻ごとの頻度との差を基準化したものに,ユークリッド距離を指標としたクラスター分析(Ward法)を施した.最終的なクラスター数は結合するクラスター間距離を考慮し5個とし,対象地域を5つの地域に区分した.

強雨頻度の日変化による地域分類とその特徴

 局地的強雨日の強雨頻度日変化をもとにした,クラスター分析による地点分類結果を付図に示す.これによると都区部西部(Cluster5)や多摩地域(Cluster4)は同クラスターの地点が空間的によくまとまって分布しており,これらでは日中午後と夕方以降の2回の強雨頻度の極大がみられる.特に都区部西部では15-17時と20-23時の極大の間の18時に強雨頻度が顕著に低かった.一方で,埼玉県中部や群馬県に分布するCluster2では夕方前後に強雨頻度が特に大きくなり日中午後の極大は見られない.両者の間に位置する東京都と埼玉県の都県境付近や都心部を中心に分布するCluster3では18時から22時に連続して頻度が高く,埼玉県中央部の一山型から多摩地域や都区部西部の二山型へ日変化型が変化する遷移帯的な特徴を呈していた.

 今回は都区部西部(Cluster5)の二山型に着目し,強雨頻度の高い15-17時と20-23時のそれぞれに都区部西部で強雨が発生した事例を対象として,予察的に都区部西部で強雨をもたらした降水域の挙動を確認するため,強雨発生前後の降水量分布のラグコンポジット図を作成した.その結果15-17時に発生する事例では強雨発生2時間前から発生時刻にかけて降水域が多摩西部から多摩南部を通過し都区部西部に達していた.一方,20-23時の事例では,降水域が多摩西部から東京都と埼玉県の都県境沿いを東進して都区部西部に達していた.今後は強雨発生日の各事例を吟味し,降水域の挙動と風系との関係について詳細な分析を行う予定である.

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