日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 308
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発表要旨
ネパールにおける留学ビジネス
*南埜 猛澤 宗則
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抄録

1.はじめに 

2019年4月より,入管法改正による新しい在留資格として「特定技能」が導入され,また日本はネパールと日本政府とネパール政府とで特定技能に係る協力覚書(二国間取決め)(9月現在,9カ国)を2019年3月に締結した。南埜・澤(2017)では,近年,急増している日本におけるネパール人移民の動向を明らかにした。在留資格の分析から,ネパール人移民の特徴として,コックなどの「技能」と日本語学校への進学を目的とする「留学」が多い点を指摘した。本報告では,送出国であるネパールの状況について,とくに日本語学校に焦点をあて,カトマンズ(Kathmandu)とチトワン(Chitwan)県の県庁所在地であるバラトプル(Bharatpur)において実施した予察的な現地調査の結果を報告する。

2.調査地の概要

カトマンズはインナーヒマラヤとサブヒマラヤの間にある中間山岳地帯に位置し,標高約1300mであり,ネパールの首都である。総人口の36.8%(975,453人,2011年)を占め,プライメートシティとして最大の人口を抱える。またネパール国内唯一の国際空港であるトリブバン空港,ビザの発券機関である日本大使館もカトマンズにある。

バラトプルはヒンドスタン平原の一部であるタライ地域に位置し標高は約200mであり,カトマンズから西約90Kmに位置し,バスで5時間,飛行機で20分の時間距離にある。また2017年には大都市(Metropolitan)区分に昇格している。総人口は,2011年センサスでは199,867人であり,ネパールで人口増加率が最も高い都市となっている。

3.日本語学校の立地展開

カトマンズとバラトプルの日本語学校はともに特定の地区に集積する傾向がみられた。カトマンズにおいてはバグバザール(Bagbazar)地区であり,バラトプルにおいては東西ハイウェー(EAST WEST High Way)沿いの地区である。立地条件としては,交通アクセスのよいバスターミナル周辺や主要道路沿いに立地しているといえる。また両地区周辺には,大学のキャンパスが立地していることも共通点としてあげられる。

4.日本語学校の戦略

現地調査では日本語学校3校において,校長(あるいはマネージャー),教員,学生からの聞き取りのほか,教室施設などを見学した。

3校の学校はいずれもビルの数部屋を使用して運営がされている。受付および学生待機室のほか,校長(マネージャー)室,教室が2〜3部屋である。教室は,25人ほど収容できる規模のもので,3人掛けの机と椅子が多く用いられている。ホワイトボードのほか,自作の教材などが掲示されている。授業は朝7時から午後3時までの2時間ごとに4コマ設定で時間割が組まれていた。教材は「みんなの日本語 初級」が使用されている。

校長の属性は多様である。校長自らが教員として授業をこなしている場合もあれば,設立にあたって資金を負担した者など必ずしも教育にかかわった者でなく,経営者であるケースも見られた。教員のほとんどは,日本での留学経験を有している。ただし,教育学部などの出身者はいなかった。また日本語検定の資格の取得も必須とはなっていない。生徒の多くは,高校卒業生で,一部には大学生も含まれている。

日本語学校の経営上の特色として,日本語の授業料を無料としていることと諸経費の支払いをビザ取得後としていることの2点が指摘される。また学生募集にあたっては,ビザ取得の成功率が鍵となっている。これらのことから,ネパールの日本語学校は,外国語学校というよりはビザ取得のコンサルタント業務を中心とする経営であるといえる。これまでは日本国内の日本語学校との連携が中心になされてきた。近年では,それらに加えて大学への直接アプローチ(私立大学で特科として設置された1年間の入学前コースへの進学)や新設された「特定技能」への対応など,ビザ取得にあたっての多様な方策に取り組んでいるのが戦略といえる。

 

 本研究は,科研費基盤研究(C)(一般)「空間的実践とエスニシティからみた在日インド人と在日ネパール人—戦術から戦略へ」(代表者:澤 宗則)の成果の一部である。

参考文献

 南埜 猛・澤 宗則(2017):「日本におけるネパール人移民の動向」移民研究 13: 23-48.

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