日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 218
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発表要旨
東京都における氷川神社の立地に関する研究
*長井 彩綾根元 裕樹松山 洋藤塚 𠮷浩
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抄録

1.はじめに

 2011年に発生した東日本大震災の,地震後の津波は甚大な被害をもたらした.高田ほか(2012,土木学会論文集B3(安全問題))は,東日本大震災の津波による神社の被害調査によって,スサノオノミコトを祀る神社,熊野系,八幡系の神社の多くは津波被害を免れた一方,アマテラスオオミカミを祀る神社や稲荷系の神社の多くが津波被害を受けていたことを明らかにした.

 本研究では,先行研究で挙げられた「スサノオノミコトを祀る神社は津波被害を回避できる」という点に着目した.そこで,関東を代表しスサノオノミコトを祀る氷川神社の立地特性について検討した.東京都の神社について,藤田・熊谷(2007,景観生態学)は,斜面地に沿って線状に分布していることを明らかにした.東京都の神社は斜面地に沿って線状に分布すること,スサノオノミコトが防災防疫の神格を持ち治水とのかかわりをもつことから,本研究では,「東京都に鎮座する神社は傾斜地に沿って鎮座するものが多いが,氷川神社はその中でも傾斜地の上部に位置することで河川沿いに鎮座するものでも水害を回避する」という仮説をたて,氷川神社の被災リスクについても考察した.

2.研究手法

 本研究では,『東京都神社名鑑(上・下)』(東京都神社庁1986a,b)に記載された神社のうち,島しょ部に鎮座するもの,他社の境内神社を除く1399社を対象とした.本研究の主な分析対象は氷川神社(68社)とした.比較として,本研究で対象としたすべての神社のほか,氷川神社とほぼ同じ数である熊野神社(59社)と天祖神社(69社,アマテラスオオミカミを祀る)についてそれぞれ分析を行った.『東京都神社名鑑』に記載されている神社の鎮座地住所をCSISアドレスマッチングサービスにて緯度経度へ変換した後,ArcMapにプロットし,航空写真を用いて社殿の位置へ合わせた.標高データは,基盤地図情報数値標高モデル5mメッシュを用いた.地形分類データは,数値地図25000土地条件図を用いた.傾斜地に関する分析は,神社が傾斜地付近に鎮座するか確認し,傾斜地の大きさを調べるために,フォーカル統計を用いて神社を中心に半径10メッシュの標高の最大値と最小値を算出した.そして,比高を抽出した.比高1m未満を傾斜地でないと設定した.地形分類は,神社鎮座地の地形分類抽出と,地形分類のうち,低地の一般面,頻水地形,水部を「過去に河川のあった可能性がある場所」として神社との距離を算出した.

3.結果と考察

 氷川神社は,傾斜地でないと設定した比高1m未満の場所に少なく,他の神社よりも割合が小さかった.氷川神社は低地にも多く鎮座しているにも関わらず,比高が大きい場所にも鎮座していた.地形分類を見ると(表1),氷川神社は,他の神社と比較して台地・段丘に多いことがわかった.低地の神社は,自然堤防に鎮座しているものがほとんどだが,浸水しやすい地形に鎮座するものが,熊野神社は3社,天祖神社は1社あり,氷川神社は0社であった.また,氷川神社は「過去に河川のあった可能性がある場所」として神社との距離が他の神社よりも近く河川沿いに鎮座していることが明らかになった.そのため,氷川神社は、河川沿いに鎮座するが,台地上や自然堤防上にあるため水害を回避可能と考える.

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