日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S301
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発表要旨
原子力災害被災地、これまでの10年とこれからの10年(趣旨説明)
被災地復興とアーカイブズから地理学の果たす役割を考える
*高木 亨山川 充夫初澤 敏生増田 聡
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抄録

2021年3月11日で、東北地方太平洋沖地震を契機とする東日本大震災発災から10年が経過した。地震被害の他、津波による甚大な被害により死者約1万5千人、行方不明役7千5百人という甚大な被害が発生した1)。また、福島県にあった東京電力福島第一原子力発電所が引き起こした事故により、約57万〜77万テラベクレルの放射性物質が大気中に放出され2)、福島県浜通りを中心に中通りや県外を汚染した。高濃度の汚染により、人びとは「ふるさと」を追われ、いまだに県外避難者は2万8千人を数える3)。各地で除染作業が進み帰還できる地域も増えてきたが、4町2村に渡る「帰還困難区域」が設定され人の住むことができない「アネクメーネ」が存在している。

 地震や津波にかかわる研究や防災教育については、2021年3月11日に発表された日本地理学会の声明にあるように、地理学界あげての研究や取り組みの蓄積がみられた4)。その一方で、福島県における原子力災害被災地での地理学界における支援研究は、積極的に取り組まれてきたとは言いがたい。福島県の原子力被災地は地理学が積極的に取り上げるべき課題が山積している(図参照)。これら課題の背景には、各地域が持つ自然的・人文的特徴があり、こうした地域性を考慮しながら、一様ではない復旧・復興を進めていくことが求められている。

 本シンポジウムでは、被災初期から福島の支援研究を進めてきた研究者を中心に、改めて原子力災害と地理学の果たす役割について考える。また、地理学以外の分野で活躍する研究者の視点を入れながら、これまでの支援研究の成果と多様なアーカイブズから、被災地の次の10年に対して地理学が果たす役割を示すことを目的とする。

 地理学から山川・瀬戸真之(東日本大震災・原子力災害伝承館)・近藤昭彦(千葉大学)、戦争体験の継承という視点から深谷直弘(福島大学)、住民支援から天野和彦(福島大学)、観光学から井出明(金沢大学)が報告をおこない、多様な視点から議論をおこなう。コメントは初澤と増田が担当する。福島県の原子力被災地における次の10年に地理学が果たすべき役割について、議論を深めていく機会とする。

1)内閣府HPより

http://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h23/63/special_01.html

2)中部電力HPより

https://www.chuden.co.jp/energy/nuclear/radiation/fukushima/

3)福島県HPより、2021年6月9日現在

https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/457804.pdf

4)日本地理学会声明:東日本大震災発生から10年に際して

https://www.ajg.or.jp/wp-content/uploads/2021/03/Statement_20210311.pdf

※本シンポジウムは科学研究補助金基盤研究A(一般)「震災アーカイブズを基盤とする複合型災害プラットフォームの日本国モデル構築」(18H03600 研究代表者:山川充夫)の成果発表の一部である

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